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ぞっとするような猫撫で声。慌てて背後を確認するが声の主はいない。
「何きょろきょろしてんの。俺はここにいるんだけどぉ?」
あんたの目、節穴なの?なんて悪態を吐く声の方を見ると、電柱の陰から端麗な男のコが顔を出した。
テレビの画面で見るよりも、雑誌の表紙で見るよりも、カメラのレンズ越しに見るよりも美しい。ううん、“美しい”の言葉じゃ足りないくらい。
どこからか風が吹いて、彼の髪を乱す。それを直すためか、月光のように艶のある銀髪をかきあげる仕草が妙に色っぽい。
彼の名前＿＿“泉”に相応しい澄んだ花浅葱色の瞳が笑みの形に細められる。
「あんた、
瀬名泉は自信に満ちた態度で可笑しそうに笑った。
1つ歳下の癖に生意気…なんて思いながら首から下げていた一眼レフのカメラをさりげなく手で隠す。
カメラさえ持っていなければ普通のOLに見えたハズだ。
「違うけど。」
あくまでも冷静を装って応じる。
「ふ〜ん、まぁいいけどねぇ。」
そう言った彼の声がやけに近く感じてハッとした。
いつの間にか彼との距離が縮まっている。
スッと彼の長い指があたしのスーツの胸ポケットへと伸びた。
「ちょ…⁈」
急いで彼の手を掴むが遅かった。胸ポケットに入れていた名刺を抜き取られてしまう。
「×××出版社?やっぱり
「……っ。」
図星を突かれて言葉が詰まる。
なんとか言い訳を考えようとしていると彼が言葉を続けた。
「ねぇA…?」
子供が新品のおもちゃを買ってもらったときのように嬉しそうに、彼は名刺を弄んでいた。
名前を呼び捨てで呼ばれて、不覚にも胸が高鳴る。普段呼ばれ慣れていないせいか、相手が彼だからか。
「さっきすごいこと聞いちゃったんだよねぇ。」
「Aも、俺のファンも、みんなが驚くようなビックニュース。」
甘く誘惑する声が、耳元まで近づく。
「知りたい?」
彼の問いにあたしはこくん、と首を縦に振った。
この状況を逆手にとって仲良くなっちゃえば何か聞き出せるかも。
…そんな淡い期待を抱いたのがいけなかったのかもしれない。
「じゃあ特別に教えてあげる。」
抵抗する暇もないくらい一瞬だった。
彼があたしの顔を覗き込んできたのと、覆いかぶさるように腰をぎゅっと引き寄せられたのとは。
柔らかい唇の感触＿＿それがキスだということに気づくまで少し時間がかかった。
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作者名：莉夢 | 作成日時：2017年3月23日 19時
