夏、恍惚として【木葉秋紀】 ページ31
オンナって生き物は、難しい。
「なんか今日、冷たくない……?」
「……んなことねーけど」
「じゃあ、浴衣、変?」
右手にヨーヨー、左手にりんご飴を持った彼女が不安げな顔つきで小首を傾げる。伏せられた目は合わない。
「……変じゃねぇよ」
むしろめちゃくちゃ可愛い。今日初めに会った時から、ドキマギしてる。似合ってるよ、本当に。だから、横にいるのもおこがましいくらいで、変に緊張してしまう。
「……でも今日木葉は変」
「んなことねえって、まじで」
「そんなことある」
「てかどっかで休まねえ?」
「……やだ」
ねえ、やっぱり木葉いつもと違う、彼女は言う。
だとしたら、お前がそんなの着てくるから。
綺麗な色と柄のあでやかな浴衣姿。キラキラと光を反射するまぶたに、ほんのりと上気したように色づいた頬。唇はいつもより赤くて、それからくるくると緩く結われた髪と、少しだけ主張する可愛らしい髪飾り。何もかもがいつもと違う。
いつもだってそりゃ自分の彼女は可愛いモンだけれど、いつもとは違う、とただそれだけのことがよりいっそう彼女を可愛く見せた。
彼女自体が可愛ことは言うまでもなく、だがそれよりも、この時間のために彼女が頑張っているのだと思うと、それが愛おしかった。自惚れた言い方をすれば、俺のためにめかしこむ彼女のその想いが、ずっと嬉しい。
しかしそうは言っても、そんなことを口に出せる訳はなかった。小っ恥ずかしいのはもちろん、どこか変態チックな上に、小心者だと思われるのもはばかられる。
つい先程にちらと視線をやった彼女の足元は、心なしかふわふわとしていて、よくみれば指と指の間が赤くなっていた。下駄のせいだ。
そう思って促した休憩も一蹴され、正直困った。どうしたものか。
とりあえず花火が見えて座れる場所に移動しよう、と周囲を見渡しながら、速く脈打ち出した心臓の音を無視してそっと彼女の手を探した時、すぐそばにあるはずのそれは見つからなかった。
ドキリ。心臓が大きく跳ねる。
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依(プロフ) - しおさん» わ、しおさん!!ありがとうございます!!!!!!嬉しいです!!!!!! (2020年5月17日 21時) (レス) id: 1c396819ac (このIDを非表示/違反報告)
しお(プロフ) - コメント失礼しますとてもファンです。いつも素敵なお話をありがとうございます。最高です!!!!! (2020年5月17日 20時) (レス) id: 2d9a1a0004 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:依 | 作成日時:2020年5月17日 20時