化け物になってもきみの返事を待ってる【赤葦京治】 (ページ23)

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ビー玉の行方ページ23

パタパタと誰かが階段を駆け下りる音がした。心の中で唱えた言葉を忘れないように、ぎゅっと手に力を込めて立ち上がる。

「っごめん、遅く、なって」

電車が来るまで、あと2分。現れたのは、肩で息をする京治だった。忘れないうちに、言わないと。電車が来る前に、伝えないと。心臓の音がうるさい。気持ちが焦るほど、もっとうるさい。
その音に背中を押されるように、勢いのままに言ってしまおう。気がつけば私は京治の手を取っていた。

「私、京治のこと、昔からずっと好きだった」

いつも助けてくれたのは京治だった。でもいつまでもその優しさに甘えて迷惑をかけたくなかった。

「本当は、今でも好き」

勝手なのはわかってる。でも、これだけ言わせて欲しい。聞いて欲しい。

「好きだよ、京治、好き」

半ば叫ぶようにそう言った。それは、自然と溢れる心の声だった。
ぎゅ、と力を込めた分だけ、私の手も握り返される。目に浮かんだ涙が、瞬きのたびに手の甲を濡らした。

もうすぐそこまで電車が来ている。
京治は眉間に皺を寄せて、眉を下げ、口を一文字に結んでは黙りこくった。何か言いたげな顔をして、口を開きかけて、それなのに、それから何も言ってはくれない。京治は伏し目がちに、繋いだ手を見つめている。

電車が止まった。

空気の漏れたような音がして扉が開く。私は帰らなければならない。京治のいない世界に。

そっと手を離して背を向けた。わかりきっていた未来なのに、いざ来てみれば、息もできないほどに苦しかった。こんなはずじゃなかった。ただ笑っていたかった。京治と、また、浴衣を着て花火大会に行きたかった。それだけだった。

大したことなんて何も望まないのに。

そう思うのは、化け物になってしまったからなのかもしれない。この大きな感情の前ではちっぽけに見えてしまう小さな欲は、本当は小さくなんてないのかもしれなかった。

背中で扉の閉まる音がした。私の熱を全て奪うような車内の冷たさが、とうとう私たちの世界を隔てた。

涙でぼやけた視界から、扉越しに京治を見る。電車が動き出したその瞬間に、顔を上げた彼の目がきらりと光ったような気がした。

何もかもを後悔したってもう遅いのだとわかっていても、電車が加速するのに合わせて次から次へと溢れる涙は、止まってはくれなかった。