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場違いな私をいつも救ってくれるのは月島だった。無愛想でぶっきらぼうに見えて、本当は誰よりも人の気持ちがわかる月島は優しい。だから今もこうして、指で数えられるほどの知人しかいないこのアウェーな空間で、彼は背中を丸めて私の横にいる。

「まさかこんなとこで会うなんて思ってもみなかったよ」
「私もだよ。合宿、大変そうだね」
「早く帰りたい」

日向や先輩に、山口に分けても山の形を保つほどに盛られていた肉がようやくなくなった、空の紙皿を見つめながら月島がぼやいた。

「……一緒に帰ろうよ」

同じように私もそれに目を落としたまま、淡い心の内をそっと声に出す。横目に月島がこちらを見たのがわかった。

「Aはダメでしょ」

月島がそう言って私が顔を上げた時、彼はまた何も無い皿を見つめていた。

「なんで?」

わずかな沈黙が訪れる。視界の端に月島を捉えたまま黙っていると、彼はおもむろにその皿と綺麗に半分に割られた箸を、コンクリートの段差に腰を下ろしている彼のすぐ側に置いた。
それから月島は浅く息を吸って、吐いて、膝を抱えて俯きながら言った。

「赤葦さんでしょ、好きなの」

前に言ってた東京の人。月島がぼそっと小さく呟く。

「な、んで」

それだけ、たったそれだけの3文字が、喉がひっついて上手く言えなかった。

「見てればわかる」

月島はコンクリートか、もしくは足の先なんかに目をやりながら、流れるように言う。

「……違うよ、京治は、ちがう」

違う、とは一体どういうことか、自分でもその意味を噛み砕かないままに繰り返した。


月島が深く息を吸った。

「なら、……僕と付き合うの?」

月島はいつになく冷たい目を光らせていて、絶対にどう考えても、私に答えさせるつもりが無いのはわかった。


嗚呼、月島は、私に京治を忘れさせてはくれないのだ、と悟る。


私は、月島が単に優しい訳では無いのを知っているのに。花が開いた時、脳裏を掠めたのは月島なのに。君は、京治を忘れさせてはくれないんだね。

向こうで京治が、大きな目をさらにひらいてはギラギラと生を全うしているかのような、そんな人と笑っていた。私はどこを向けばいいのか、わからなくなった。

すうっと心の冷えていく音がする。影が差したように視界が暗くなっていく。
すっかり雲に覆われてしまって、全てが、私自身すら、霞んで見えた。

月明かりに照らされて→←清夏の陽



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作者名: | 作成日時:2020年7月2日 23時

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