検索窓
今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:2,313 hit

4 おりたたみ傘 ページ4

「いちちゃん、これ使う?」

 「え?」

 突然声をかけられ、戸惑ってしまう。

 そんな私の様子を見て、彼女が慌て出してしまった。

 「ご、ごめん、いちちゃん困ってるように見えたからつい…。」

 私は急いでいつも通りの笑顔をつくる。

 「ありがとう!急に雨が降ってきたから困ってたんだ。」

 私の言葉を聞いて彼女はへにゃぁと笑った。

 彼女は倉沢みちな。クラスの学級委員であり、みんなのお荷物。

 小学校に入ったばかりの頃、席が近かった私たちは必然的に友達になった。

 『いちちゃん』はそのときにみちなが私に付けた渾名だ。

 低学年の頃は仲が良かったものの、明るい性格のみちなと暗かった私は段々とはなれていった。

 中学校に入ってみちなの明るい性格はそのままだったけれど、能力の面でみんなに馬鹿にされるようになっていた。

 勉強はできない、運動もできない、絵も音楽も料理も裁縫もできない。とにかく彼女は周りの人間よりはるかに劣っていた。
 
 そんな彼女が推薦で学級委員になったのはみんなの遊び心だったのかもしれない。

 彼女に友達は出来なかった。

 ただ明るいだけでは足りなかったのだ。

 「よかったぁ。いちちゃんの役に立てて嬉しいな。」

 まだ、私のことを友達だと思っているのだろうか。

 そんなの、困る。

 だけど、突き放すことは出来なかった。

 笑顔を崩さず、口を開く。

 「本当にありがとう、倉沢さん。今度返すね。」

 彼女の目が大きく見開かれて、顔が歪んで、かなしそうに笑った。

 「…みちちゃんってよんでよ。前はそうやってよんでたじゃん。」

 え?

 「あ、ご、ごめん!私帰るね。傘は適当なときでいいから。」

 彼女はそう叫んでどこかへいってしまった。

 私が何かした?

 何で、ずっと友達なんだと思っていられるの?

 彼女をうざったいと思ってしまった。
 
 
 強くなった雨足を目の前に傘をさしたとたん、
強風に煽られた。
 
 借りたおりたたみ傘も風に吹かれて、張ってあった彼女の名前のシールが剥がれた。

 そこに書いてあったのは彼女の名前ではない。

 『こ き あ け い ち じ く』

 間違いなくわたしが無くした…

 カシャン

 濡れた地面に、ゆっくりと傘が落ちた。

続く  (更新停止中) お気に入り登録で更新通知を受け取ろう

←3 幸せでした



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 7.7/10 (35 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
6人がお気に入り
オリジナル作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

幻花(プロフ) - ありがとうございます! (2018年11月27日 20時) (レス) id: 56f78acefa (このIDを非表示/違反報告)
三月緑(プロフ) - カッコいい感じが好きです 応援しています (2018年11月27日 20時) (レス) id: b53440f7cd (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:幻花 | 作成日時:2018年11月26日 23時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。