【d!】日常に潜む｡【企画】 (ページ12)

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どろっぷす。３-５ページ12

窓を見ればすっかり真っ暗、時計を見れば19:00。

『お先失礼します。』

定時の時間だ、PCの電源を完全に落として鞄を持って会社を後にする。
その足は真っ直ぐ駅へ……ではなく、パティスリーへ向かっていた。
扉を開ければ甘い香り、ショーケースに並ぶキラキラのケーキ。
時間も遅いから残り少ないけれど、私には充分だった。

『ショートケーキをふたつ。』

小さな白い箱を持って、今度こそ駅へ向かった。
ぴこぴこ、スマートフォンが鳴る。

おすまん Aちゃん、今どこ?

可愛らしいうさぎが首を傾げるスタンプと共にそんなメッセージ。

A駅に居ますよ。

そう返せばすぐに彼が来た。

「なんで置いてってまうん！」

ぷんぷんと可愛く頬を膨らませて怒る彼。

『甘いもの、食べたいって言うから。』

彼の目の前にパティスリーの箱を差し出せばぱちくりといつもは細められている目を開く。

「買ってきてくれたん？」

『そう、流石にこの時間から作るなんて出来ないし。』

「ほんまええ子やなあ…俺なんかには勿体ないわ。」

勿体ないと言いながら、離す気もないくせに。

よしよし、と頭を撫でられる。
子供扱いな気はするがこれは嫌いではない。

「じゃ、帰ろか。」

『うん。』

行きとは違って二人で揺られる電車は言葉はないけれどあっという間、不思議だな。

自宅の最寄り駅に着いた、二人で改札をくぐり家までの道のりを歩く。
寒いからか距離が近い、もう少し近づけば手が触れてしまいそうな、

「Aちゃん、着いたで？」

『へっ、あ、はい！』

バッグの中をあさり、深緑のキーケースを取り出した。

時計を見る、帰宅したのは19:30。
部屋に入り鞄を置いてラフな服に着替える。
リビングに戻れば彼もラフな服で待っていた。

二人でキッチンに立って、適当にご飯を作って適当にごはんを食べて、買ったケーキと淹れてもらった珈琲を持ってテーブルへ。

「ショートケーキやん。」

『それくらいしか残ってなかったの。』

「まあ時間も時間やしなぁ。」

さくり、フォークを刺してひとくち。
甘い、こんなに甘かったっけなあ。

「たまには、こんなシンプルな幸せもええかもな。」

流し込もうとして手に取った珈琲を置きなおした。
これが幸せだというのならば、もう少し味わっていたい。