【煉獄杏寿郎】俺は君に初恋を捧げる

壱ノ肆　家出 ページ8

【結論】


何とも言えず、杏寿郎の作った料理を食べてみようということになり、蝶屋敷の厨房を借りて作ることになった。もちろん、鮭大根。

炊き込みご飯なんかも作ってもらい、昼食はそれで済まそうという話になったのだ。そして食べ終わった現在。

「……メシマズ男だな」



「殺意が湧いてきますね」



「煉獄さんって……」



「……」



げっそりとした宇髄。口元を拭きつつも、戻さないように押さえている胡蝶。出された冷たい珈琲をがぶ飲みする甘露寺。

一番怖いのが、一切表情を動かさない冨岡だ。あれほどに緩みきっていた顔が、一口食べると一瞬で消えたのだから。

無言で口数少ないいつも通りの彼に見えるが、胡蝶のように言葉にはせず、実際に殺気を杏寿郎に向けている。

かという本人も、今回こそはと意気込んではみたものの、派手に失敗して最悪の気分だ。これが昨日の晩も続き、死にかけている。

「なんつーかな、本気で死を覚悟するような味だよな」



「まったくもって悪気なく失敗を重ねていくので、怒るにも怒れませんし……」



「鮭も大根もしばらくは見たくもないわ」



三人は口々にそう言って、口直しの冷たい珈琲を口に含む。冨岡はうつ向いて、動きもしない。余程、ショックだったのか。

「すまんな、冨岡」



「……と……のか」



「むう?」



「お前はこんな糞みたいなものを、嫁と弟に全部食わせたのか」



顔を上げた冨岡の顔は、完全に死んでいた。否、絶望しきっていたと言ったほうが正しいだろう。それこそ、親友を亡くしたような。

「味見だけですっかり口の中がおかしくなってしまった……」



「よもやよもやだな」



深々と頷きつつも、杏寿郎はいずれ克服したいと考えている。Aが何かしらの怪我を負って入院したときを考えれば……。

千寿郎は確かに杏寿郎より料理は遥かに上手い。だが、やはり火を使わせるのは兄……というか保護者目線では、まだ怖いのだ。

やはり、万が一(その可能性はなるべくあってほしくはないが)の場合に習得しておいた方が良いだろう。

四柱全員も、正直、驚きで頭が回っていない。なんでもそつなくこなすかと思えた杏寿郎が、破滅的に料理音痴だなんて。

項垂れていると、客間に女の子らしい少し高く、おどおどしたような声が空気を切り裂いた。アオイだ。

「あ、あの…!!」



「何ですか?」



「A、という女性の方がいらっしゃっています」



その言葉に、全員が(主に宇髄が)机をひっくり返しながら立ち上がり、アオイを見つめた。

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