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拾ノ壱 愛しいという想い ページ40

【それは雨降る夕暮れ】


降ってきた雨を見上げて、紅い傘をさした。弟の通う書道教室に迎えに行かなければならない。大きな門の戸口を、軽く押した。

弟の縁は中学1年生。中高一貫のキメツ学園に通う、まだ幼い雰囲気の少年だ。運動が好きで、体育の成績は何時も一番良い。

勉強もそれなりなのだが、Aに似たのか英語は苦手らしく。千寿郎君という同級生の親友に教えてもらっているんだとか。

学校行事に参加するのは父の役目。Aは幼い頃に亡くなった母の代わりに家事を担っている。だから、彼に会ったことはない。

『……降ってきた』



いよいよ本降りのようだ。紅い傘の中に体をギュッと縮めて、左手に持つ縁の真っ黒な傘に力を籠めた。もう直ぐに書道教室に着く。

「姉ちゃん!?」



『縁、お迎えに上がりましたよ』



「姉ちゃん、仕事は?」



『私は仕事先が変わるから、明日からです』



墨がついた頬を優しく包み込めば、嬉しそうに微笑む縁。Aも少し顔を柔らかくして、小さく口角を上げた。頑張ったようだ。

「あ……」



「千寿郎!?み、見てた!?」



声が聞こえた先には見た目が派手だが、物腰は優しそうな少年だ。縁は顔を赤らめて、慌てる。だが、その少年が見ているのは。

『こんにちは』



「……あ……うえ」



『え?』



「い、いえ。こんにちは、縁君のお姉さんですか?」



「嗚呼!!俺の自慢の姉ちゃんだぜ!!」



微かに零れた声は聞こえなかった。何処か辛そうな顔をして、Aを見上げた千寿郎。その理由を、Aは忘れているのだから。

「縁君の友達の煉獄千寿郎といいます」



千寿郎は苦しかった。“義姉”は自分のことを覚えていてはくれなかったから。大好きな“義姉”は。縁の“姉”という立場で其処に居る。

今は。決して自分の“義姉”ではないという現実を叩き付けられた。今にも抱き付いてしまいたいが、必死に我慢して微笑んだ。

「いつも縁君にはお世話になっております」



『雪代Aと申します。明日からキメツ学園の古典の先生になるんです。これから縁共々宜しくお願いします』



義姉だったのだから。名前は勿論、知っている。なのに。Aは自己紹介をした。空虚な想いが千寿郎の頭をよぎった。

幼稚園から同じの縁には悪いが、少しだけ嫉妬してしまった。其処は。自分の立場であった筈なのに、と。昔に想いを馳せる。



「________A………?」



そして、また出逢う運命である。

拾ノ弐 愛しいという想い→←玖ノ弐 命が散るということ



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ユリ(プロフ) - 出来ればでいいんですが、後日談的なものがみたいです (2020年8月26日 18時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
セニオリス - ユリさん» 最後まで読んで下さり、本当にありがとう御座いました。またこの作品に顔を出してもらえると嬉しいです。 (2020年4月7日 21時) (レス) id: 353512f049 (このIDを非表示/違反報告)
ユリ(プロフ) - 完結おめでとうございます。最後まで感動しっぱなしでした (2020年3月2日 11時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
セニオリス - アリスさん» 毎度毎度、遅くて申し訳ないです!!最近、スランプ中でして……。どうにか必死に更新をしたいと思います……!! (2020年2月23日 10時) (レス) id: 9ec8afc8ac (このIDを非表示/違反報告)
アリス - 続きがものすごく気になってそわそわして寝られません。更新頑張ってください (2020年2月21日 22時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:セニオリス | 作成日時:2019年7月8日 14時

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