標的53 恋色ハナビ−３ ページ16
麗羅視点
｢あれ、すっごく綺麗だねー！｣
｢此処は花火の隠れスポットだからな｣
ぱらぱらぱら…… 音と共に、漆黒の夜空に小さな黄色の華が幾つも咲く。
長い石階の先にあって樹々に囲まれている この場所は、町や屋台の灯りに照らされてしまわないお陰で、暗闇に花火がよく映える。
あたし達以外に人は誰もいない。
山本君の言う通り、確かに此処は隠れスポットだ。
一際高く上がった白い光は、夜空の中で赤色の林檎に変わった。
思わず「わぁあ！」と歓声を上げる。
普通の円状の花火も十分美しいのに、型物になると更に美しい。
ふは、と笑う声がして、空から隣に視線を移す。
山本君はまた、地震の日と同じ甘い顔をして此方を見つめていた。
ほんのとり頬を染めて、目を輝かせながら口角を上げる。
その顔を向けられると、どうしようも無く恥ずかしくなる。
なのに、さっきとは逆に目を逸らせられない。
｢えっと、山本君……？｣
｢麗羅見てると、なんか幸せな気分になる。
なんでだろうな｣
｢なんでって言われても、困っちゃうよ｣
本当に困って、曖昧に笑む。
でも、あたしも山本君とこうして一緒にいると、胸の奥が温かくなって幸せな気分になる時がある。
どうしてだろう？
「俺は、」山本君が何かを言い掛けた瞬間、石階から知らない男女の声が聞こえた。
山本君と顔を見合わせ、咄嗟に近くの物陰に身を潜める。
そっと顔を出して様子を窺うと、女性が男性の腕に抱き付いて身体を密着させている処だった。
反対側の林へ入って行く男女は妙に色っぽくて、見ている此方が恥ずかしい。
男女に背を向け、草の上に腰を下ろした。
花火の上がる音はしたが、枝えだの隙間からしか見えなかった。
｢花火処じゃ無くなっちゃったねー｣
あーあ、と溜息を吐くあたしに、しかし山本君の反応は無い。
不思議に思って隣を見ると、山本君はまだ男女の方を見据えていた。
何故か顔が真っ赤だ。
「どうしたの？」訊くと山本君はやっと我に返って、あたしの方を向いた。
｢い、いや？ 何でも無い。
そろそろ戻ろうぜ｣
｢？ そうだね。ツナ君達にお店を任せっきりにするのも悪いし｣
山本君は辺りを見回してから、こっそりと物陰から出た。
あたしも それに続いて物陰から出、一緒に石階を下る。
山本君は、何を言おうとしていたのだろうか？
――ドォオン。最後に上がった花火は、少し歪なピンク色のハート型だった。
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作者名：レイチェル | 作成日時：2018年8月29日 9時
