・ ページ1
・
死ねばいいと思う。
全部ぜんぶ、消えてなくなってしまえばいいのに。
そんなことを思う夜は、いつもたいてい雨が降っていた。
父親が死んだ。たくさん血を流して死んだ。腑がこぼれ落ちた中年の身体はとても醜くて、吐きそうだった。
母親も死んだ。血だらけの手で、自分の首に縄をかけて死んだ。父を刺したのは母だった。
私は
お腹が空いていた私は
2つの死体を部屋に置き去りにして、生まれて初めて外に出た。
母親からは絶対に家から出るなと、物心ついた時から躾られていた。こっそりカーテンを開けて、窓の外を見ようとしたのがバレて殴られ、首を絞められかけたこともある。
戸籍がないから、私はこの世に存在するはずのなかった人間だから、誰にも私の存在を知られてはいけないのだと。
それならいっそ、早く殺してくれれば良かったのに。そう思ったこともあったし、それに似たことを直近母に聞いたこともあったけれど、
「人を殺すのはわるいことだから」と。
そう答えた母が、こんなにも残酷に父親を殺したのがなんだか面白かった。
生まれて初めて見る外の景色は何もかもが新鮮で、昔本で読んだファンタジーの世界よりももっと、現実感がなかった。
空、は昔窓から見上げたそれよりずっと高く澄んでいて、初めて触れたアスファルトは冷たかった。
ずっと憧れていた母のサンダルは想像よりも私の足に馴染んでいて、いつの間に私の足はこんなに成長していたのだろうと不思議に感じながらも、さながらシンデレラになった気分だった。
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 199人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ベルカ | 作成日時：2023年3月21日 0時
