百六十二歩目。 ページ13
―心操side―
「A、おいで」
そこにいるであろうAに手を広げて呼びかける。
すぐに衝突したのかってくらいの勢いでくっついてきたAを抱きしめて10秒もすればAの姿がパッと見えるようになった。
【認識遮断】、あの時からずっと制御できるように練習はしていたけれど、やっぱりまだ自力での解除は難しいみたいだ。
いつでも使えるようになったから制御は出来始めてる。
解除できるまでの速度もだいぶあがった。
文化祭での透明人間役はAが自分から言い出したことだから使うことに対する恐怖心なんかは薄まったんだろう。
手を握ったり、足首を掴んだり、息を吹きかけたり、物を落としてみたり...随分楽しんでたな。
悲鳴がすごかったし全速力で駆け抜けて行った人もいた。
『いやぁ〜、大盛況だったねぇ。若干耳痛いや』
「本物がでるって噂になる程だからな。Aが楽しそうで良かったよ」
『うん、楽しかった。けっこうみんな来てくれるからうれしくて張り切っちゃったよね。お客さんがびっくりして殴りかかってきた時はさすがに焦ったなぁ、顔面すれすれだった』
「あぁ...。俺も泣き叫びながら頭振りかざされたのはビビった」
『幽霊でも物理攻撃しちゃう人だったね。午後も頑張んないとだし、さっそく食べいこー！』
「ん」
Aに手を引かれて生徒で溢れる廊下に出た。
衣装はそのままで、顔に塗られた血糊はさすがに落とした。
Aはよく見る白い着物で、逆三角の頭巾だけを取った格好。
姿は見えなくても雰囲気だけでも味わえってクラスメイトに押し付けられてた。
Aの明るい髪色には真っ白でシンプル過ぎる着物がアンバランスだ。
本人は最初こそ『走りづらいなぁ』なんて言ってたけど、『意外と動きやすい！』って袖を振り回しながら走り回り始めた。
その様子を見てAは幽霊になってもこんな感じなんだろうな、なんて勝手に想像して勝手に不快になった。
少しでも、Aがそうなった時を想像してしまったから。
『心操くんなに食べたい？』
「Aが好きなのでいいよ。俺も食べたいのあったらその時言うから」
『そーお？あ、そーいえばランチラッシュも出店するって言ってたからそこ行こ〜！』
「時間はあるんだからゆっくりな。はぐれたら面倒だろ」
走りだそうとしたAの手を握ってそう言えば、振り返ったAは目を瞬く。
そして繋いだ手を上げて満足そうに笑った。
『心操くんが握っててくれたらだいじょーぶ！』
▽
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作者名：えると。 | 作成日時：2023年3月30日 22時
