百六十四歩目。 ページ15
―Aside―
エリちゃんの手を両手で包んで、目を合わせて、
後ろにいる三人に目を向けた後にまたエリちゃんを見つめ返した。
『たくさんの"楽しい"を教えるよ。エリちゃんが楽しくて幸せで笑って過ごせるように、私もがんばるね。よーし、じゃあルミリオンたちのとこまで競争しよう！いくよ？よーい...』
「ん、！」
『ドンッ！』
走り出したエリちゃんの斜め後ろを走る。さすがに追い抜くなんて大人げないことしないよ。
ゴールでは通形くんが両手を広げて待ち構えてる。
楽し気な声を出しながら駆けるエリちゃんがかわいい。
無事に転ぶこともなくエリちゃんが通形くんにたどり着いて抱き上げられた。
その様子を見ながら相澤先生に小声で話しかける。
『時間大丈夫ですか』
「あと10分程度だな。18時までには病院に戻らないといけない」
『んー、短い』
「お前はどうせ会いに来るだろう。それよりクラスの方は良かったのか」
『はい。みんなに許可は貰ったので』
「そうか」
相澤先生との話が途切れて、二人でエリちゃんの方を見ればエリちゃんもこちらに気付いた。
眉を下げてさみしそうな表情をするから、帰る雰囲気を察しちゃったのかもしれない。
エリちゃんがこれからどうなるのかは大人が決めることで、私は知らない。
ずっと病院で暮らすわけにもいかないだろう。
大方想像はつくけど、相澤先生も通形くんも何も言わないから楽しみにとっとくことにする。
みどりくんからサプライズのりんごあめを受け取ったエリちゃんが小悪魔的な笑みを浮かべたのでこの子の将来に恐ろしく思った。
とんでもなく美人に育つぞ。かわいいも兼備えちゃってるからもう大変よ。
そんなことを思いながら私もみどりくんの隣にしゃがんで、何気にずっと持っていたトートバッグから紙袋を取り出す。
不思議そうな顔をするエリちゃんに差し出して、みどりくんの真似をしてみる。
『サプラ〜イズ、...ってね！』
「わたしに、？」
『もちろん。ホントは朝渡せたら良かったんだけど、時間なかったから』
「あけても、いい？」
『うん、いいよ』
エリちゃんが紙袋を除いて「あっ」と言いながらそれを取り出した。
隣で見ていたみどりくんも同じ反応をして、通形くんが「エリちゃんが好きなりんごだね！」と言う。
そう、りんご。とは言っても果実じゃなくて、りんごのデザインのベレー帽だ。
我ながら気に入ってるデザインで、今日のエリちゃんのコーデにも合うと思う。
▽
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作者名：えると。 | 作成日時：2023年3月30日 22時
