百四十九歩目。 ページ50
―NOside―
その言葉を最期にナイトアイは眠った。
心電計の音が無情にも響く。
ナイトアイの右手を握っていた遮止はまだ温かい力の入っていない手を持ち上げて自分の左頬に当てた。
自分の手を重ねて、押し付けて、ただじっとナイトアイの顔を見つめている。
その顔には涙も笑顔も浮かんではいない。
遮止の心情を推し測れるのはサイドキックの二人と通形だろう。
だが、バブルガールは泣いていてセンチピーダーはそんな彼女に寄り添っている。
通形も目の前で泣き叫んでいて、オールマイトと緑谷も泣いている。
まるで、遮止がおかしいのだというように、彼女はこの場で浮いていた。
ナイトアイと遮止がどんな関係なのかは全員が知っている。
だからこそ、親代わりのナイトアイの死を目の前にして遮止が何の感情もなく、無表情でいることが異様に見えるのだ。
そのままの状態で約３分が経過して、泣いていた四人も落ち着いてきた。
相澤が全員に声をかけようとしたところで唐突に遮止が口を開いた。
『壊理ちゃんに会えますか』
そっと、持ち上げていたナイトアイの手を布団の上におろして、遮止は真っ直ぐに相澤を見た。
その発言に全員が面食らった。
死穢八斎會の件については他言無用で、壊理救出に赴いたヒーローとインターン生は勿論知っている。
オールマイトとリカバリーガールも事情は聞いていた。
だが、遮止は救出に参加してなければ、事情も聞いていない。
ナイトアイから教えて貰ったと考えるのが妥当だが、身内だからと彼が教えることはないだろう。
「...今は高熱を出して隔離されてる。目覚めても会えるかどうかは分からん」
『そうですか』
「どうして壊理ちゃんのことを知ってる？」
『ホークス経由で聞きました。私がインターン中に福岡のヒーローに協力を要請したでしょう』
「そうか。(NO.3か、聞かれたら答えてもおかしくはないな) 何か用でもあったのか？」
『いえ、特には。まぁ、いずれ会う機会もあるでしょうし、怖がらせたくはないので大丈夫です。とりあえず今は、』
淡々と話す遮止があまりにも普段通りで、相澤はどうすればいいのか分からなかった。
逆にバブルガールや通形はナイトアイ事務所での様子との違いに驚いていた。
表情豊かで明るく元気な彼女しか知らないのだ。
周りを置き去りにして遮止が言葉を続ける。
『未来さんのお別れ会、しましょっか』
さっきまでとは打って変わって、穏やかに微笑んでいた。
▽
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作者名：えると。 | 作成日時：2023年3月6日 22時
