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海の王子様は､『深海奏汰』という名前らしい｡
名前から海が感じられ､素敵な名前だと小さく拍手をして､気持ちを表してみた｡
しかし､彼はこてんと首を傾げて､上手くは伝わらなかったみたいだ｡
｢あなたの『なまえ』はなんていうんですか？｣
話せない私に右手の掌差し出し､かいてくださいと言う｡
｢海渡｣と書くと､深海くんはキラキラと瞳を輝かせた｡
｢『にんぎょひめ』さんは『うみ』でもあるんですね…♪｣
嬉しそうな深海くんは､したのなまえもおしえてと楽しそうに言い､私は｢A｣と書く｡
平仮名でもう一度名前を書いてみれば､｢うみわたりさん｣と優しい声で私の名前を呼んだ｡
甘い声は､トロリと心を溶かすかのような感覚に陥らせる｡
私より大きい掌に､｢しんかいくん｣と書けば､嬉しそうに返事をしてくれた｡
なんで海にいるの？と書いて尋ねれば､深海くんはえへへと笑ってみせた｡
｢はやくいけば『にんぎょひめ』さんに『あえる』ようなきがして､『ぬけだして』きちゃいました｣
深海くんは私の手を取り､ギリギリ足が届くところまですいすいと海の中を漂っていく｡
されるがままになりながら､脳内は深海くんが言った言葉で埋め尽くされて､上手く思考回路が働かない｡
抜け出してきたって､いいのそれ？
そう言いたいけれど､手を掴まれてるから伝える手段なんてない｡
伝える手段がないから､何も言わないでこのまま時間を過ごせるのが嬉しく思えてしまう｡
楽しそうにぷかぷかとまるで海と同化してるような深海くん｡
抜け出してくるくらい会いたかったとか､自惚れちゃうよ｡
これ以上居たら､どぷんと深海くんに溺れてしまいそうになる｡
会ったばかりなのに､もっともっと一緒に居たいって欲深くなっちゃう｡
グイッと深海くんの腕を引いて､掴まれてない方の手で｢かえる｣と書けば､彼は少し寂しそうな表情をする｡
｢あしたもきてくれますか？｣
頷けば､その返事に満足したのか優しい笑みを浮かべて濡れた手で頭を撫でられる｡
母に撫でられた時と違って､胸が幸せで満ち溢れるような感覚に思わずきゅうっと苦しくなる｡
｢あしたは『よる』にきてくださいね｣
濡れたまま靴下とスニーカーを穿いて､またねと手を振ると深海くんにそう言われる｡
ずぶ濡れなのを忘れてしまうほど火照った体を冷ますように､私は走って家まで帰った｡
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むに - めちゃくちゃ良かったです！ ただ、あんのてい？って書いてあったところが誤字なのかなぁと気になってしまいました…。多分案の定(あんのじょう)と書かれたかったのかなと…、作品はとても素敵でした！ (4月29日 5時) (
レス) @page14 id: 624c087a05 (このIDを非表示/違反報告)
薔薇(林檎飴)(プロフ) - ぷかちゃん最推しなのでこういう作品本当にありがてぇ…可愛いです… (2020年10月11日 0時) (レス) id: 1b3bd211bf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：rice | 作成日時：2020年10月4日 17時
