アメジストを守る黒曜石 Ⅱ (ページ36)

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第79話さいていページ36

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ドンの腕を振り払うと、Aは図書室を飛び出して行ってしまった。

通った先に転々と赤い花が咲く。

しかし、その花を辿る者は誰もいなかった。

いや、できなかった。

した所でなんになる。

見つけたところで、俺はAに何をしてやれる？

……無理だ。何もしてやれない。

────今の俺に、Aを愛する資格なんてない

「……私………またやっちゃった……」

不穏な空気が流れた図書室に、頭を垂らして顔を覆うエマの声はよく通った。

「隠し事したって意味ないって、ドンとギルダの時に知ったはずなのに……。 “信じる覚悟”が足りてないって気がついたくせに」

「……Aの気持ち……なんにも考えてなかった！」

エマの指の隙間から雫が落ちた。

普段泣かないエマが、自分のせいだと泣いている姿に、心臓の奥が締め付けられる。

見れば、ドンもギルダも泣いていた。

「お前だけじゃないぜエマ……。俺だって教えなかった責任がある。あの時……俺がAに教えてやれれば……！！」

「私もAがいつも辛そうにしてたの知ってたくせに何もできなかった……」

目頭を抑えながら上を向くドンに、「ごめんねA……」とただひたすら謝りながら泣くギルダ。

皆が自分を責めて泣いている。

けど、違う……お前らのせいじゃない。

本当に悪いのは……

「俺だ────」

「全部……俺が悪いんだ……」

勝手にAの幸せを決めつけて、自分の策に溺れた俺が全部悪い。

「俺が“言うな”ってお前らに頼んだから……最悪の事態を招いた……ッ」

俺は最低だ。

最低な兄だ。

痛い。痛い。痛い。

心が……張り裂けそうだ。

なぁA、お前はいつもこんな気持ちだったのか？

この痛みを我慢して笑ってたのか？

俺なんかよりずっと辛かったはずなのに。俺はそんなお前の気持ちなんて考えずに、散々酷いこと言っちまった。

背後の本棚にもたれかかって顔を覆えば、笑うAの顔がいくつも浮かんだ。

大人っぽさに加えて、少し幼さが残る無邪気な笑顔。

俺が大好きな顔。

けど、笑顔が段々と歪みだした。

ヒビが入って、パリンと音を立てて、全部崩れ落ちた。

「ごめんなA…………ごめんなぁﾞ……ッ！！」

目から流れるものをこぼさないよう、俺は上を向いた。