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卑屈など聞かない ページ8

「ごめんなさい、山姥切さん」

一人で黙々と畑を耕す彼に深々と謝罪の意を示す。

「内番を忘れていたわけではないのですが、少し稽古をしていて……」

「そんなに謝るな。謝るより、手伝ってもらっていいか。今日中に全部たがやさなければならんらしい」

「えっ、き今日中にっ⁉この広さを?」

出来ないこともないだろうが、なかなか骨が折れる仕事だ。

確かに謝罪の言葉を並べる暇があったら、とっとと耕して行動で反省をしめすほうがいいだろう。

ーーそうと決まれば。

早音は猛然と耕し始めた。

山姥切は一心に耕し始めた彼女の背中を見つめて、ふと顔をほころばせた。
出陣していない分、内番に励み、少しの時間があれば稽古をしている姿をよく見かける。
努力を惜しまず、何事にも懸命で健気な彼女はあっという間に本丸の人気者になっていた。

ーーあのあばら家から連れてこられてよかった。

すっかり馴染んだ様子に安心しながら、山姥切も鍬を振り上げた。




「あっっっつーいっ!」

中天に差し掛かろうという陽が容赦のない熱を地に送ってくる中で、汗を拭いて早音は堪り兼ねて声を上げた。

「お腹減ったー!」

もう一度叫ぶと、心なしか呆れたような視線を山姥切に向けられた。
その彼の頰にも汗がつたっている。

「……少し休んでいろ」

木陰に目をやって、山姥切はそう言うとまた鍬を握り直した。そして振り上げようとした。

が、その腕を掴まれて引っ張られた。不意の事に驚いて山姥切の手から鍬が離れた。

「何を……」

ぐいぐい引っ張られて行く先はさっき自分が示した木陰で、手を引くのは早音。

「休憩しましょ」

「俺はいい。あんたに休めと言ったんだ」

「でも汗だくだし、疲れたんじゃありませんか?それに、もうお昼時ですし休んだっていいはずです」

「俺は写しだ。汗にまみれてくたびれているのが丁度いい」

「何わけのわからないこと言っているんです。写しだろうと何だろうと疲れたら休む、これ常識です」

「だが…」

「あっ、燭台切さんがおむすびを持たせてくれたんです。一緒に食べませんか?で、食べた後は長谷部さん顔負けの機動力で働いて、あっという間に今日の分を耕してしまいましょう!」

最早山姥切の言葉など聞く気が無いらしい。
次から次へと話題を出す早音に折れて、山姥切も木陰に腰を下ろして握り飯を食べた。

食べる間もよく喋る早音の様子に山姥切の口元には知らず知らずのうちに笑みが浮かんでいた。

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作者名: | 作成日時:2018年4月16日 19時

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