もう2度と 雷翡 ページ1
雷同side
ふと、俺は目を開ける。
空は闇に包まれている。
そこは翡翠家のそばの大通り。
隣には翡翠がいて、俺の顔を訝しげに覗き込んでいる。
『どうした、ぼーっとしやがって』
「何でもねえよ」
雑踏をかき分け、色々なにおいの交錯する夜の大通りを歩く。
遅い時間だと言うのに、そこは異様に活気があって、賑やかだった。
耳をつんざくような車のエンジン音を聞きながら、2人で肩を並べて歩道を歩む。
今日は嫌に街灯が明るく、男2人、恋人繋ぎで歩いている俺たちを批判するようだった。
スポットライトを当てられ、見せ物にされているよう。
俺がされるのは構わないが、翡翠が見せ物になるのは御免だ。
俺は歩くスピードを速める。
交差点を、青のような、緑のような光を確認して渡る。
『おい、そっち家じゃねえぞ』
「...あ、悪い」
俺たちが方向転換した時には、その色は獅童の色へと変わる。
それに気づき、立ち止まった時、不意にクラクションの音がその場に鳴り響いた。
その方向を見れば、一台の軽自動車が歩道へと乗り上げ、こちらに近づいていた。
『雷同!』
ぐいと袖を引かれ、その場にべたんと座り込む。
尻の痛みを感じていると、あることに気づく。
翡翠が俺に抱きついたまま動かない。
「___翡翠...?」
俺が身体に触れようとすると、
『いってぇ...無事、か?雷同』
ばっと身体を起こして、翡翠が俺に手を差し伸べる。
「......何やってんだ、俺を庇って死んだりなんかしたら許さねえからな」
俺はとりあえず手を掴み、起き上がる。
顔を見られないように、そっぽを向いて感謝を述べる。
無事で、よかった。
翡翠と永訣するようなことがあれば、俺はしばらく生きる気力を無くすだろう。
あるいは、死ぬまでずっと。
『それより、頭打ってねえな、よし。帰るぞ、ここ酔っ払い運転が多いんだよ』
翡翠はニコニコ笑いながら手を引く。
「おい、聞いてんのか」
『聞いてるっての。大事な兄さん遺して逝けるかよ』
「...わかってんならそれでいい」
俺は手を握る力を強める。
『痛えって、力込めすぎだろ』
「いいから帰るぞ」
失わない。
いなくならせたりなんてしない。
もう2度と。
俺はそう、神嵜神社で誓ったのだから。
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作者名:なっち〜 | 作成日時:2021年11月26日 9時