CROWN No.129 ページ29
‥
何があったのかは知らない。
知ろうとも思わない。
ふたりの過去がどんなもので、どんな思いをしてきたのかも。
話してほしいわけじゃない。
何度も言うようだけど、人にはそれぞれ秘密がある。
自分のプライドを保つためだとしても自分の記憶から消すためだとしても、秘密は確かに人の中に存在する。
私の横を通り過ぎて去っていこうとする夏恋の顔は、ひどく怖かった。
恐怖じゃない。
人に危害を与える気があるような顔ではない。
何か我慢しているような気を張っているような、そんな。
A「力を抜いて」
自分でも、咄嗟だった。
私よりいくらか身長の高い彼女を、抱きしめていた。
片肩に頭を押さえつけて、背中に手を回した。
彼女は驚いてしまったのか、身体が硬直している。
A「気張らなくていい。話さなくていい」
気張って、孤独の道を進まなくていい。
でも、話したくないなら何も話さないでいい。
だけど、
A「……一緒にご飯食べよう」
少し間を置いて、口から出てきたのはそんな言葉だった。
正直自分でがっかりした。
何だろ、ご飯食べようって。
意味解んないじゃない。
彼女の身体が痙攣し始めた。
何が起きたのかと思って慌てて身体を離して顔を覗いてみれば、
A「……え?」
夏恋「ぶふ……くくっ、ふふ」
笑いをこらえていたのか、顔を真っ赤にさせた夏恋。
後ろを振り返れば、同じように腹を抱えている萩花。
私の何がそんなにおかしかったのか。
はたまた、呆れたのか。
思いつくことなんてさっきの言葉だけだけど、それにしても笑いすぎだ。
彼女達は笑う。
リミッターが外れたように、素で笑っている。
夏恋にいたっては、涙が滲み出ている。
A「そんなに変なこと言った?」
夏恋「いや、変じゃなく、って……くくくっ」
萩花「あは、あはははっ……」
こうも長く笑い続けられていると、段々腹が立ってくる。
羞恥も相まって、勢いよく扉を開けて外に飛び出す。
飛び出した後は、他の囚人に変に思われないように、静かに歩いている風を装う。
走りたい衝動を抑えながら、あっと言う間に辿り着くのはこの刑務所の屋上。
‥
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シェリル(プロフ) - 最初から一気に読ませていただきました。小説に引き込まれ、楽しくドキドキしながら読ませていただき、素晴らしい小説に出会えました!書くのは大変だと思いますが、京羽さんの小説の虜になってしまったので、これからも応援しています!オチは片寄くん希望です。 (2018年12月23日 18時) (レス) id: 04471f650b (このIDを非表示/違反報告)
さぁや(プロフ) - お話の構成や、人物の様々な表情が細かに書かれており読みごたえがありました。片寄くん希望です。 (2018年10月25日 17時) (レス) id: 0e28084fa3 (このIDを非表示/違反報告)
たちばな(プロフ) - 京羽さんの言葉のセンスやとても凝っているお話の構成が大好きです。読むたび次話が楽しみでなりません。これからも楽しみにしています! オチは玲於くん希望です (2018年10月23日 22時) (レス) id: 37da8e3cba (このIDを非表示/違反報告)
殺し愛(プロフ) - BIC CITY RODEOからこの世界観を作り出すなんて凄いです!GENEのメンバーも現実設定の様で違う様な…独特の設定で面白いです。最後に、オチは隼君が良いです! (2018年10月22日 17時) (レス) id: ee020fb2bb (このIDを非表示/違反報告)
さくらんぼ(プロフ) - コメント失礼します!京羽さんの語彙力わたしに分けてほしいです、、笑 オチは亜嵐ちゃん希望です!かつこいい亜嵐ちゃん期待してます!!! (2018年10月22日 6時) (レス) id: bc935dea58 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Kyoh. | 作成日時:2018年1月26日 0時