CROWN No.122 ページ22
‥
萩花も夏恋もびっくりして、私を間に挟んで裕太に慌てて礼をする。
裕太はふたりをちらと見て、また私に視線を戻す。
私は、ふたりに顔を見せ、『先に行ってて』と真顔で言った。
ちょっぴり、怖いと感じさせてしまったかもしれない。
ふたりは、顔を見合わせて歩きだしていった。
裕太に『ちょっとええか』と呼ばれた時、言われたわけでもないのにあのワードが頭の中を駆けた。
同時に耳でピアスが揺れる。
どこぞの車のメーカーのエンブレムと似たような形のそれは、私の耳と同時に裕太の小指でも光る。
刑務官に何かを言った裕太は、私の横を通り過ぎ、2歩ほど前を歩き出す。
慌ててついて行くと、そこは図書室。
夕飯前の号令がかかっているから、ここには今、囚人は誰ひとりいない。
私と、裕太以外には。
裕太「何で来うへんの」
A「だって……」
裕太「この間のことか」
A「……」
裕太は、『皆待ってんねん』と言った。
特に刺々しくもなく、かと言って優しさもなく。
ムキにはなってない。
頭はいたって冷静だ。
じゃあ、何故行きたくないのか。
──それは、怖いから
酒とギャンブルに酔いしれる、富裕層の笑顔。
人々の頭を惑わせ、快楽に導いていくアルコールの色。
ボリュームマックスでリズムを刻む、耳を壊しそうな音。
いろんな口実と権利を使って私を丸め込む、貴方達。
私は今、その世界の全てが怖い。
ここで今言いたいこと全てを吐き出してもいいけれど。
裕太の性格……と言うか、衝動を知っているからやめた。
はたまた、どこかで、この醜い気持ちを吐き出すことを望まない私がいるからか。
裕太「隼に言われたやろ?
『既に "俺ら" をかき乱してること、忘れないでね』」
京羽「やっぱりあの時、聞こえて……」
裕太「悪い。でもそれくらい、もうお前は "俺ら" の渦の中に深く入り込んでんねん。
今までのとは違う。お前は、 "俺ら" の何かを惹いてる」
裕太は、すたすたと図鑑コーナーの奥に向かった。
きょろきょろしている様子はないから、きっとここにはよく来るんだろうなあって。
今だって、本2冊持ってるし。
戻ってきた裕太の手には、分厚い図鑑が1冊。
裕太「明後日、午後6時。今度はメンさんが迎えに来る」
A「えっ、ちょ」
裕太「絶対来いよ」
『俺が、お前を呼びたい』
去り際にそう聞こえたのは、気のせい?
‥
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シェリル(プロフ) - 最初から一気に読ませていただきました。小説に引き込まれ、楽しくドキドキしながら読ませていただき、素晴らしい小説に出会えました!書くのは大変だと思いますが、京羽さんの小説の虜になってしまったので、これからも応援しています!オチは片寄くん希望です。 (2018年12月23日 18時) (レス) id: 04471f650b (このIDを非表示/違反報告)
さぁや(プロフ) - お話の構成や、人物の様々な表情が細かに書かれており読みごたえがありました。片寄くん希望です。 (2018年10月25日 17時) (レス) id: 0e28084fa3 (このIDを非表示/違反報告)
たちばな(プロフ) - 京羽さんの言葉のセンスやとても凝っているお話の構成が大好きです。読むたび次話が楽しみでなりません。これからも楽しみにしています! オチは玲於くん希望です (2018年10月23日 22時) (レス) id: 37da8e3cba (このIDを非表示/違反報告)
殺し愛(プロフ) - BIC CITY RODEOからこの世界観を作り出すなんて凄いです!GENEのメンバーも現実設定の様で違う様な…独特の設定で面白いです。最後に、オチは隼君が良いです! (2018年10月22日 17時) (レス) id: ee020fb2bb (このIDを非表示/違反報告)
さくらんぼ(プロフ) - コメント失礼します!京羽さんの語彙力わたしに分けてほしいです、、笑 オチは亜嵐ちゃん希望です!かつこいい亜嵐ちゃん期待してます!!! (2018年10月22日 6時) (レス) id: bc935dea58 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Kyoh. | 作成日時:2018年1月26日 0時