【BIG CITY RODEO / GENERATIONS】 CROWN

CROWN No.39 ページ39

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ひどく、哀しい顔だった。
生気を失った、抜け殻のようだった。
床をぼーっと見つめたまま、ただ口だけが動く。



『昨日地下であいつ殴ってた時も、正直記憶ない』と。
『お前が首絞められてるの見て……気づいたら』と。
彼はそう言った。









裕太「葬儀に来た奴に『警察に通報してくれ』て頼んだ。
　だから、今俺はあん中(監獄)おる」


A「……そう」









雨の中、無我夢中で人を殴ったあの日。
あれは隠れた自分の本性だと、気づいてしまった。
弟の死が引き金となって現れた、もうひとりの自分。
気性が荒くて、手がつけられなくて、自我が保てない。









裕太「メモには、こう書かれてた。
　『いつまでも人を笑わせる兄ちゃんでいてほしい』
　なのに、俺は……正反対のことをしでかしたんや。
　しかもそれが自分の意思と関係なく暴走する」


A「それは……」


裕太「俺は自分が嫌いや。殺したいほど憎い。
　でも、結局死にきれずに、こうやって生きとる」









きっと笑ったら、さっきのようにどこまでも無邪気で澄んでいるはずなのに。
前触れもなく現れた狂気を、彼は愛せない。
その狂気を、弟のために凶器に変えてしまったのだから。









裕太「俺は気づいとった。
　あいつがやつれていくのに、気づいていながら……
　どこか知らんフリしててん。
　めっちゃ悔しいねん。
　俺が気づいとったら死なんで済んだんやと思うと」









いくら他人が『それは貴方のせいじゃない』と言っても、本人がそう思っている以上は思考修正など不可能。
修正などしたら、それはメンタルケアではなく洗脳だと言わざるを得ない。
当事者しか解らない。
だから、自分でケリをつけなければ、彼は永遠に枷をつけたまま生きていくことになる。



私は、何も言わない。
言えない、のほうが正しいのかもしれないけど。
それでも……それでも、これだけは。









A「弟さんは……気づいてたよ、きっと」


裕太「え？」


A「16年間一緒だったのは、彼から見ても同じ。
　だからきっと……貴方以上に貴方のことを解ってる」


裕太「……」


A「ただ、貴方のバカを見て笑ってたんじゃない。
　本性に、水面下にいるもうひとりにきっと気づいてた。
　だから、そんな言葉、遺したんじゃないの」


裕太「……憶測やん、そんなん」


A「うん、でも……彼が貴方の笑顔に元気を貰ってたのはきっと事実だから」




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