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78:この手の先に ページ39

Aは一日入院しただけですぐに仕事に復帰した。

極度のプレッシャーと不眠症のせいで体に負担がかかったため、倒れてしまったらしい。
まさか天が病院まで来るとは思っていなかったので、Aは驚いた。
しかし、彼の顔を見て安心したのは確かだ。ユウリにしか語ったことのない、父親の話をするぐらいだから、だいぶ心が落ち着いていたようである。


Aはマネージャーに呼び出されて事務所に来ていた。
単独ライブの中止が決まった、とのことだった。まだファンには伝えていないという。
この状況だ。Aは頷くことしかできなかった。


「A」


Aは廊下を歩いていて急に名前を呼ばれて驚いた。


「ユウリ・・・!?」


そこにはなんとユウリがいた。
ジャージ姿のユウリは、ゆっくりとAのもとに近づいてくる。


「Aごめんね! ほんとにごめん! もう大丈夫だから!」


ユウリは何度もAに謝った。不自然なくらい何度も。


「大丈夫、なの?」


天に言われた言葉を思い出す。
“キミの大丈夫は大丈夫じゃない”
だったらユウリの大丈夫も大丈夫ではないかもしれない。


「だい、じょうぶ! 一人にしてごめんね。こわかったでしょ」


ユウリは汗をかいていた。唇も震えている。顔色が悪かった。


「ユウリ、顔色悪い、よ」


Aがユウリに手を伸ばす。


「あはは、そう、かも。でもAを一人には、できなっ」
「ユウリッ!?」


しかし、Aが伸ばした手はユウリに届くことはなかった。

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作者名:兎田夏 | 作成日時:2017年1月1日 0時

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