第2話 ページ3
【健人目線】
「おつかれー」
「お疲れ。そういえば菊池、指輪あげたんだって?」
仕事を終えて、撮影現場を出ては隣を歩く菊池に声をかける。
菊池は「あー…」と照れ臭そうにして縦に頷いた。
「朝からすっげールンルンしながら見せて惚気てくんの。お兄ちゃん悲しいよ」
「だから中島の前ではしゃぐなよって言ったんだけどなぁ…」
大きな溜め息を吐いた菊池は、やはり俺たち兄妹の事をよくわかっている。
「あ、悪い。俺この後も別の仕事あんだ。じゃあ、また。Aにもよろしく」
「了解。いってらっしゃーい」
腕時計を見て、菊池はパタパタと走って行ってしまう。
どこかで夜ご飯でも食べて帰ろうかと思ったところでスマホが震えて着信を告げた。
「もしもし?」
電話をかけてきたのは母さん。
何の用だろうと思いながら通話ボタンを押せば、いつもより慌てた声が聞こえた。
「………え?」
*
「A……ッ!」
ガラリ、と病室のドアを開ければ、ベッドで眠るAと、Aの側に座っている母さんと父さんの姿。
母さんはAの手を握り、父さんは母さんの肩をそっと抱いている。
「健人…」
「Aは、…Aは無事なの?」
Aの側によって見てみれば、Aは規則正しい呼吸を行い眠りについているようだ。
「まだ目は覚ましていないけど、特に大きな外傷もなくて奇跡だって先生が言ってたよ」
父さんの言う通り、事故にあったとは聞いたものの、Aはいつも寝ているような格好で眠っている。
取り敢えず、命に別状も内容で一安心して、椅子に腰掛けAの手を握る。
「俺、Aの事見てるから。…母さんも父さんも、ちょっと休んできてよ」
電話の時から何となくは察していたが母さんの顔色が悪い。
「じゃあ……。少しだけ、外に出ようか」
母さんの肩を抱いて、父さん達は病室を出る。
眠りつくAの髪をそっと撫でて、静まり返る病室で吐いた溜め息はとても大きく聞こえた。
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作者名:ルイ | 作成日時:2019年5月26日 20時