第12話 ページ23
ちょっと強引すぎたかな、なんて反省しようとしたところで、Aが再び口を開いた。
「ふーま…」
「っ……」
漸く、何度も聞いていた呼び方で名前を呼ばれ、心臓が大きくドキリと音を立てた。
「やっぱり恥ずかしいですよ〜…！」
はぁぁ、なんて大きく息を吐いて、両手で顔を覆ってしまうA。
今すぐにでも抱き締めてやりたいくらい可愛くて、車のハンドルを握る手に無意識に力が入る。
Aとデート出来るのは嬉しいし、これがきっかけで俺の事を少しでも思い出してもらえればと思ったが、こんなもどかしい状況に何度も陥る可能性があるとするなら、果たして今日1日俺の理性は耐えれるだろうか。
モヤモヤとしながら、車を走らせて目的地に到着すると、駐車をしてからAと一緒にお店の中へと入る。
平日の日中な事もあって、人はそんなに多くはなかった。
「お好きなとこ気の済むまでどーぞ」
「はーい」
ウィンドウショッピングのデートも何度もしてきたから、なんとなくAの行くような店は把握している。
Aの一歩後ろを歩きながら、彼女の後ろ姿を追って、暫くしたらAは振り返り俺を見た。
「なに、どうしたの？」
「…隣、歩いてくれないんですか？」
「え？」
「……あ、そっか。こんなとこ誰かに見られたりしたらヤバいですもんね…。すみません」
俺が隣にいないのが気になったのかAはそれを指摘するものの、自分で言った事に気付いて1人で納得する。
再び歩き出したAの背中を目で追いながら、俺は少しだけ早歩きをして彼女に追いつくと、静かにAの隣を歩いてみた。
俺に気付いたAは目を丸くして俺を見て、ふわりと微笑みを浮かべる。
「大丈夫。気、遣ってくれてありがと。Aちゃんが良いって言うなら、Aちゃんの隣俺が貰うわ」
「…ふふ、やっぱりアイドルですね」
俺の言った事が、どうやら職業病だと思われたのか、Aはクスクスと笑う。
俺はお前の兄貴みたいな甘いセリフなんか吐けやしないんだけどな、なんて思いながら一緒に笑って誤魔化した。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 34人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ルイ | 作成日時：2019年5月26日 20時
