【黒バス】R【黒子テツヤ】

「濁って消える」 ページ22

「あれ、和食は口に合いませんか？」

「……いや……」



あれ、じゃねぇよ。


こんな見たことも無いような豪勢な食事出されて何の動揺も無く食べ始める方がどうかしてるわ。


「いつもこんなん食べてんの？」

「まぁ……

でも今日は藍里さんがいるのでいつもよりも気合が入ってますね」


黒子が意味ありげに目線をずらしたからそっちの方を見てみると、私の斜め後ろに立っていた料理人風の男と目が合った。


……いや風っていうか、多分まじで料理人なんだろうけど。



何故か照れ臭そうに笑うその男に内心首を傾げながらも会釈する。


深々としたお辞儀が帰ってきた。



……私まじで普通にお客様として扱われてんな。


私が10万で買われてここに来たなんてことは誰も考えてないと思う。



いただきますはもう言ったけど、改めて手を合わせて料理を口に運ぶ。


前菜的な刺身の盛り合わせ。



いやうっま……


感動しながら二口目に箸を伸ばそうとするけど、後ろの料理人からの視線が痛い。

コメントしろってか。


「……美味しいです。お店の味がします」

「光栄です！」


料理人は食い気味に言って爽やかに笑った。


身体を前に向き直すと、黒子が手に口を当てて笑って……



……うわ、また笑ってる。


胸がガーン、と打たれた感じ。


私多分こいつの笑顔めっちゃ好きだな。


「小学生みたいなこと言いますね」

「……わかりやすくていいじゃん」


声をあげずに喉を鳴らす黒子は馬鹿みたいに透明だ。


こうやって目の前にしても本当に存在するか疑うレベル。

むしろ、たとえ今存在していても、気付いたら周りに溶けて消えてしまいそうな気さえする。




それもきっと、私が濁りすぎているからだろうけど。


透けて消えるのは簡単だけど、濁って消えることは出来ないもんなのかな。

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