【歌い手】＿きみのいろ＿#10【ROC】

456話 ページ48

深緑色のパーカーの上に大きな毛布をかぶっている
ゆりんくんがベランダの１番向こうにいた。

どちらともなく歩き出して、ちょうど真ん中の、いぶくんとしんさんの部屋の前で止まる。
２人の部屋はきちんとカーテンが閉めてあった。

『なんで起きてたの?』

ゆ「夏代とくーらーといぶと遊んでたんだけどさ、11時くらいにみんな部屋に戻って
　それから部屋暗くして、ベット入って夏代としゃべってたら10分ともたずに寝た」

Aこそなんで起きてたの、と訊かれ、鼻をすすってから答える。

『なんかねー、ちょうど目が覚めたんだよね』
ゆ「え、ごめん起こしちゃった?」
『ううん違うの、ほんとにたまたま、メッセージ来る直前にぱちっと目が覚めたの』


結局、今日けけさんに謝れなかった。

いぶくんに励ましてもらえたものの、それでもまだやっぱり怖くて。



言い訳するつもりも、あれを見てどう思ったかを伝えるつもりもない

ただ、謝らせてほしい。それだけ。


ゆ「A?」


冷たい指先に触れられる。
ゆりんくんの白いそれが、セーターのすそを握り締めていた私の手の甲をつついた。
私は自分が手のひらに力をいれていたことに、気付かないでいたのだ。

力を抜いて下ろすと、するりと冷たくて乾いた手のひらが繋いでくる。

ゆ「なんかあった?」

『…うまくやれないことばっかりだなって』

手を握り返した。思い出したように、同じことを訊きかえす。

『ゆりんくんは?なんかあった?』

そういえば夏休み前とか、結構こんなふうに彼に手を引かれるみたいにすることがあったな

部活が好きで来られなくなるのが嫌で
なかなか部室から出られずぐずぐずして。

ひとりでいるのは楽だけど、でも、それは

ゆ「ううん」

誰かと関わっても何も残らないことがこわいからだ。

関わりをもつ前ともった後と、何ひとつ変わらないこと
無かったことみたいになってしまうこと

仲良くしていたつもりになればなるほど、その反動みたいに、寂しさはちゃんと積もる

＿＿はずなのに


私は、それすらも残らなかったんだ


『――…わ、どうしたの?』


手が離れたと思ったら、今度は後ろから
毛布の端を持ったまま首に両腕を回された。

すっぽり、毛布とゆりんくんにくるまれる。とってもあったかい。

すぐ耳元で「寒そうだったから」と返事がした。
その声が鼻声だったから、私は、ゆりんくんも寒かったのかな、と思った。



ふと、思い出す。

457話→←455話

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す