【歌い手】＿きみのいろ＿#10【ROC】

436話 ページ28

音楽の授業のあとだった。

荷物をまとめて席を立ったところで、米津先生に呼ばれた。
手招きをしながら「ちょっといいですか」って。

まつしには先に行ってもらい、グランドピアノのそばの先生の方へ

米「あの、ちゃんとした応募は年明けに授業でしようと思っているんですが」

首をかしげる私。

米「伴奏、やってみませんか?」

『やりませんね』
米「あっ、またそうやってすぐ決めちゃう」

くるりとドアの方を向きかけた私を、待った待ったと引き留める。
仕方がないので、話だけでも聞くことにしたんだ

米「卒業式の時の、在校生が歌う方の曲の伴奏です。
　部活に入る前のAさんにはあんまり思うところのない行事だったでしょうけど、

　…今は、そんなことないでしょう?」

(先生ズルいよね)

こうやって、良心めいたものに訴えかけて、揺さぶってくるのは
子供に言うことをきかせたい大人の、常とう手段だ。

怒鳴っても褒めてもダメなときの、次の手。

米「もちろん先輩のためだけに弾けって言ってるんじゃありません。
　僕がやってみてほしいと思うんです。ひとりで弾くんじゃなくて、１度でいいから、」


.


(“誰かのために演奏してみてほしい”かぁ…)


指揮者に合わせ、歌声に合わせ、自分は歌う代わりに奏でる、ということ。

私が断るのを前提に話を持ち出したらしく、あのあと先生は一方的に話を打ち切った。

年明けに伴奏の募集を始め、オーディションをして決定するそう。
多くはないだろうけど、少なくもないだろう。
そういえばりぶくんとかもやるかもしれない、ピアノ弾けるから。

もしやることにしても、受からなければ、結局意味がない


Ｋ「あーもう決まんないし、あみだくじでよくない?」

Ｓ「お前３年がかりで花の雑なとこ移ったよね」
花「怒るわよ」

米津先生は知っている
＿＿私が弾いているのを聴かれるのが好きじゃないこと

家で練習しているときでも、お父さんやお母さんに聴かれていると思うと気持ちが萎えた。
レッスン教室で年に１度行う発表会も、だから全然好きじゃなかった。

Ｋ「はい選んで」

４つの縦棒とそれをめちゃめちゃに繋げた線。
結果を発表するのはれをるちゃんのお仕事らしい。

(花さんたちのために、弾く?)

れ「んっとねー…しんくんといぶ。夏代くんとゆりんくん」

(それって私じゃなくてよくない?)

Ｅ「っしゃあ!!」
ゆ「あー…うん」
夏「お前ら失礼すぎじゃない?」


考える猶予をもらっても、きっと答えは同じだ。

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