【歌い手】＿きみのいろ＿#10【ROC】

431話 ページ23

17回目のクリスマスイブは、朝から雪が降っている。


夏合宿の時よりも荷物は少ないから、今回はボストンバックに詰めてきた。
それを足元に置き、“皐月”と書かれた標識の横のインターホンを押す。

《はい》

『朝早くにすみません、息吹くんと同じ部活の』

《Aさんよね、今開けるわ》

名前を覚えていてくれたことに驚きつつ
間もなくして開いたドアから顔を出したお姉さんに挨拶をした。「おはようございます」

美「寒いから中にどうぞ。忘れ物して部屋に探しに行ってるから」

くすんだ金色の長い髪を、きれいなお団子にしてある。
もちろん良く似合っていてすてきだ。


―――朝みんなで行こうと言いだしたのは孝明くん。

私の家から学校へ向かう道を少しだけ外れると、２人の家がある
前科アリの彼が遅刻しないため、っていう意味もこめて、私たち３人で行くことにした。

今からちょうど30分後くらいに、けけさん以外が学校の前へ集合になっている。


お家の中は暖かく、コーヒーの香ばしい匂いがした。

玄関先にはやや膨らんだトートバック
…まさかいぶくん、荷物これだけじゃないよね?


Ｅ「姉ちゃんさっきのピンポンってもしかしてさーっ」


ニット帽のぽんぽんをぷかぷか揺らしながら、
右手にケータイの充電コードを掴んで駆け下りてくる。

私に気づくと‘ぱっ’と笑顔になって「おはようございます!!」、元気な声で。

『おはよう。あのさ、荷物こんだけ?』
Ｅ「はい、これとそれだけです」

これというのは背負っているリュックのこと。

(少ないなー)

お姉さんから手土産っぽい紙袋を受け取り、「うん、忘れないよ」とか
「大丈夫持った持った」とか、一通りうなずいてから、やっと靴を履きだす。

Ｅ「んじゃいってきまーす」
『お邪魔しました』

美「はい。２人とも気をつけてね」


本当に、とっても普通の、仲のいい姉弟にしか見えなかった。


.



一方、こちら夏代宅。

インターホンを押そうとした私をよそに、いぶくんは何の躊躇もなくドアに手をかけ
そして驚いたことに開いてしまったのだ。

Ｅ「不用心でしょー?」

振り返らないで言う。

Ｅ「僕がいつでもこっちに来れるようにって、昔から開けといてくれるんですよ」

それでもピンポン押しちゃう方が多かったですけどね、って

Ｅ「先輩?ほら、早く入りましょ」


まだ髪の黒い、小さな男の子が
べそをかいてドアを開けるところを想像して、胸がつまった。

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