走れ。 (舞賀 oomiya)

6 ページ7

「ただいまー」



時計の針は、既に9をさしている。

大学から、翔にいが帰ってきた。

夜遅くまで、御苦労様である。


「...おかえり。」

昨日と同じ、ゲームを持ったまま玄関へと向かう。



「あれ？潤帰ってきてないの？」

痛いところをつく。



きちんと揃えられた靴を見、翔にいはそう言った。

昼間のことがよみがえり、軽く唇を噛む。


「...帰ってきてますよ。


すぐ上に行っちゃいましたけど。」




まだ、仲直りしていない。

お互い、へんな意地を張っているのか

彼は帰ってきて俺の顔を見るまでもなく、

走って自分の部屋へと戻っていった。

マサキは午後イチで出掛けたが、未だに帰ってきていない。

部屋は離れていると言えど、二人きりで同じ家にいるのはなかなか気まずかったのだ。



視線を外さず俺の目を見て翔にいは言った。



「...お前ら喧嘩しただろ」



...

...図星。

この人は、いつもそうだ。


一息、間をおいて言う。


「...しましたけど。」

ゲームを閉じて、翔にいを見た。
へんな汗が吹き出している。

「どうせ智くんに関係することだろ？」


...また当てやがった。


翔にいがこっちを見てにやにやしている。

「お前ら二人ともほんとに智君好きだよなぁ。





...潤、そんな所に隠れてないで出て来いよ。

小学生じゃないんだから...」


咄嗟に振り向くと、階段の影からこちらを覗いている潤くんと目があった。


「...」

ゆっくりと潤くんがこちらに向かって来る。

俺の前まで来ると潤くんは勢いよく頭を下げた。

「俺、智にいが来てくれるのが嬉しくて、

カズについ...きついこと言っちゃった。


ごめん。」


「え、あ...その...俺も、すいませんでした...。」

ペコリ、と俺も頭を下げる。

なんか気まずい...。

そんな俺の背中をぽんぽんと軽く叩いたのは翔にいだった。

「おし、これで仲直り完了な♪

まったく...二人は智君が好きすぎるんだよ。

ま、兄弟を大切にできるのは兄ちゃん嬉しいぞ。


...そんな二人にビッグニュースだ。」

翔にいは極上の笑みで言った。

俺も笑って聞いた。

......そんな大好きな兄の自由を奪ったのは、




俺じゃないか。





...そんな言葉を、飲み込んで。

7 <second story>→←5

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す