嫌いと言わせてくれない君《桃》 (ページ9)

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それから、小テストは毎回間違えるようになった。
分かる問題も、わざと間違えた。

先生に会いたくて。
授業でしか聞けないあの声を聞きたくて。

成績なんて気にせずに、盲目になっていた。

「月島、お前こんな成績やったっけ？」

『え、』

「なんやもうちょい良かった気してな。
分からへんのやったら、個別で教えよか？」

教師に、そんな時間があるわけなかった。

なのに私はやっぱり、周りが見えていなかった。

『先生がいいなら、教えてほしいです』

のめり込んだ自分を、後悔してもし切れない。

「おう。ええよ」

ぽんぽんと撫でられた頭。

大人である先生から香る煙草の匂いが、禁忌への好奇心を倍増させていた。

もう二度と、あの青春は返らない。

それでも、未だに思い返す。

「A」

あの人が呼んでくれた名前。

その声、表情、全て。

『…苦い』

子どもと笑われたような、そんな苦いあの味だってまだ、まだ完全に消えているわけじゃない。

全て、こびりついたように離れないから。