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『しげ、起きて。起きてってば』
「ん、……何時？」
『七時』
「まだ大丈夫やん…」
『大丈夫じゃないでしょ。
まだ仕事終わってないんじゃないの？』
「せやけどさあ」
眠たげに欠伸をこぼすしげ。
「おはよう」と言えば「おはよ」と返ってくる。
一人暮らしだからか、それがすごく嬉しい。
「ん、せや。昨日俺なんて言うとった？
喋った記憶はあんねんけど、中身すっからかんでさ」
『さあ…話したのは世間話くらい。
強いて言うなら、私が怒ったからじゃない？』
「え。怒ったん？」
『お酒弱いのにもっと飲もうとするから』
「どうりで頭痛いわけや」
トーストを頬張りながら喋るしげ。
しげには悪いけど、嘘をついてでも昨日のことはもう言いたくない。
絶対、気づかれてしまう。
まだ忘れられてないんだって。
『ねえ、しげ』
「んー？」
『小瀧くんってどんな子？』
「…小瀧？」
私が生徒について聞くのは珍しいからなのか、何度も瞬きを繰り返して静止。
慌てて、昨日の話題を出せば納得した様子。
告白のことは、言えないけれど。
「んー、頭ええで。指折り三つには入るんちゃう？
帰宅部なんが不思議なくらい運動もできるし」
『へえ』
「興味ないんかい」
『生徒に深入りはしたくない』
「出た。クールビューティーA先生」
『…』
「嘘やって、な？」
こうして茶化してくれるのは有難い。
本当は、しげも分かってる。
私と同じになる人がいたら困る。
自分のせいで、そうさせたくない。
それは、教師になる上で絶対に守ると決めたことで。
心配してくれてるのは、嫌ってほど感じてる。
『しげ』
「なんやあ」
『小瀧くんってしげのクラス？』
「せやけど。なんで？」
『…ううん、やけに知ってるから気になっただけ。
しげ昨日小瀧くんのこと話してたから』
「あー。ぜんっぜん覚えてへんけどな」
先生は、今なにしてるかな。
まだ、英語教えてたりするのかな。
「さんきゅ。また来るわ」
『来なくていいよ』
「は！なんでなん！」
『ふふ、嘘だって。また学校でね』
先生。
私は、先生と同じ道を辿ってるんでしょうか。
「おう」
生徒のこと、ちゃんと考えられてる？
…ハメ、外してないよね？
教えてほしい。
答えも、私への思いも。
『…さてと』
伝えに来てくれたらとどんなに願っていることか。
先生は、知りもしないでしょう。
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