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「せーんせいっ！」
『小瀧くん、』
「そんな顔せんといてや。
俺が先生のこと虐めたみたいやん」
『虐めたも同然じゃ……』
「なに？」
『…何も』
どうすればいいんだろう。
「…先生」
甘い声に、振り回される。
…着いていきたいと、思ってしまう。
どこか重ねているのはもう分かってる。
でもそれで、彼も傷つけずにすむのなら…
「キス、してもええ？」
利用してもいいと、そう言うならば。
『…お好きにどうぞ』
私はそんなに優しくないよ。小瀧くん。
「……そういうとこ、ほんまずるい」
唇を重ね合わせて、沼に一歩、足を踏み出す。
うなじに回った手のひら。
鼻を掠めるフルーツのような甘い匂い。
…高校生のくせに、香水なんかつけちゃって。
同じだなあ。
何もかも。
『…いい匂いだね、この香水』
「ん？」
誰もいないのをいいことに、彼の首に手を回す。
腰に触れた手からも彼が男の人だということが伝わって、ふと思い出すのはまた、あの人。
香水、好きだって言ってたな。
「大人の女の人って、好きなんかなって思って」
『小瀧くん、もしかして私のこと大好き？』
「え、逆に聞くけど今？」
『いや、…うん』
「なんやねん」
ふわりと笑ったかと思いきや、ニヤリと妖艶な笑みを浮かべて私の髪をさらさらと梳いていく。
伸ばした腕に光が当たる。
色白になろうと気をつけていたあの日から、気づけばいつの間にか腕は白くなっていた。
そんなことさえ、忘れてたのに。
君と、小瀧くんといると。
大嫌いなはずのあの人への大好きな気持ちが、溢れてきてしまう。
忘れたくないと願うように、次々と。
『そんな顔、するんだ』
「どんな顔」
『大人っぽい顔』
私なんて、ずっと子ども。
欲しかった記憶と引き換えに、失くしたものの面影を今もずっと探し続けて。
ない、ない、と泣いて。
またあげるからと言われれば安堵して、甘えて。
結局、またあの人の感触を探ってる。
「…先生にとって、俺は子ども？」
分からないね。人って。
大人なのに子どものようで。
子どもなのに大人のよう。
泣き喚く子どもと、宥める大人。
どちらでいようと疲れてしまう。
『…大人って、言ってほしい？』
子どもと大人。
「…別に」
私は、言葉だけを使いこなす、立派な前者。
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