常夏《赤》 (ページ5)

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『ただいまー』

幸い、そんなに離れていない家までのタクシー代は、思ったほど高くなかった。

まだ起きそうにない実紅をベッドに寝かせ、一休み。

『はあ、疲れた…』

人を支えながら歩くのって案外足がもつれる。

仕事終わりだからヒールあったし、尚更。

『これ…どうしたらいいんだろ』

少し折れたレシートを片手に、ソファーに寝転ぶ。

こんなことされたの、初めてだ。

なんでオムライス頼んだって、覚えてたんだろ。

お客さんだって沢山いたし、特に目立った行動だってしてないはず。

……実紅がいたから、覚えてたのかな。

『起きたら渡そ』

実紅狙いなら、私なんかがあれこれ悩む必要もない。

よかった、余計な勘違いしなくて。

「A、水ちょうだい…」

『あ、起きた？ちょっと待って』

ちょうど冷蔵庫にあったペットボトルを出して渡す。

頭痛そう。結構飲んでたからなあ。

「ごめん、大変だったでしょ。ありがと…」

『大丈夫。泊まってく？
こんな時間に帰るのも危ないし』

「ありがと。…じゃあ泊まろうかな」

『シャワーは？』

「今はいいや。明日の朝浴びさせて」

『分かった。おやすみ』

「ん、おやすみ」

ふらついた足取りのまま寝室に行った実紅を見てから荷物を片づける。

部屋数も家具も設備も、高校生からバイト三昧だったからこその今。

これだけは、しっかりしてるなって自分でも思う。

別に苦でもなかったし楽しかったから、いい経験にはなったと思うけどね。

『私も寝るかあ』

白い紙は、一応カバンの中に入れておいて。
また明日にでも渡せばいっか。

ソファーに重たい身を預ける。

数分もしないうちに、思考が完全に途切れた。