常夏《赤》 (ページ4)

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「あー美味しかった！
ね、また来ようよ。常連になりたい！」

『程々にね。でも私もまた来たいよ』

「んふふ、さすがA～」

『もう、潰れないでって言ったのに』

ぐでーっと机に突っ伏した実紅を横目に、お手洗いを理由に席を立つ。

ちゃっかり伝票もお供させて。

高校からのバイトのおかげで、それなりにある貯金。

そこから引き出せばいいか。

上手いように貢がされてる実紅に払ってもらうのは、ちょっと申し訳ない。

『お会計、お願いします』

「あ、はい！」

あ。さっきも見た。
営業スマイルとは少し違った、無邪気な笑顔。

店員さんの方も気づいたみたい。
少し目を見開いてから、ぺこりと頭を下げてくれた。

「どうでしたか？オムライス」

『へ？あ、すごく美味しかったです』

「ほんまに？よかったあ…
あ、すみません、嬉しくてつい」

『いえいえ。大丈夫です』

レジ打ちをするだけなのに、少し気の抜けた関西弁が耳に届く。

照れくさそうに後ろ髪を掻いた店員さんに、少しだけ胸がざわついた。

「ありがとうございました」

『いえ、こちらこそ。本当に美味しかったです』

レシートになにやら書き込む彼。

そんな彼を不思議に思いながらも、視線は実紅のいるテーブルに向いていた。

あー、寝ないでくれ。

「あの、これ」

『あ、すみません。また来ますね』

「お待ちしてます」

目の下に出来た笑窪と、とびきりの笑顔。

ほんの少しだけ、かっこいいと思った。

『実紅ー？帰るよー』

「んー、Aの家行く、…」

『……もう…』

ふらつく実紅を支えながら入口へ。

またお越しください、とわざわざ見送ってくれた彼にもう一度お礼を伝えてお店を出た。

暗い道に、暗い空。

実紅が潰れてるのもあるし仕方ない、と言い聞かせてタクシーを拾った。

「ん、……」

『無防備すぎるから悪い奴が集(たか)るのに…』

女の私から見たって可愛い実紅。

いい人にだって、好いてもらえるはずなんだけどな。

隣で眠る実紅にかけるためにコートを脱ぐ。

ふとコートのポケットに手を突っ込んで気づいた。

そうだ、レシート。
後からもらったからお財布にしまってない。

取り出したときに見えた裏面。
真っ白の中に黒が見えた。

あ、あのときこれを書いてたんだ。

『…え、これ番号？』

″よかったら連絡ください″

神様、これはどういうことでしょうか。