惨め生真面目けじめ。 ページ40
◆
「目を閉じて」
太宰は云った。疑問は多いが、太宰の云った通りにAは気を許すように目を閉じる。
真っ暗な空間に放り込まれたようなむず痒さに、Aは不安になった。しかし、そっと太宰の手が触れた手のひらの温もりに、Aは安心を覚えた。
「君は、目を瞑っているね」
こくりとAはうなずく。肯定を示した。太宰の質問の意図は掴めない。ただ、昔聞いた心療療法に似ていた。
「ならば君は眠っているよ。今の君は悪夢の中だ。とっても怖くて、辛くて、寂しくて。」
太宰の声が遠のき、Aは反響する声に耳を澄ませる。
__例えば、構ってくれない同僚。
__例えば、庇ってくれない保護者。
__例えば、『要らない』と云われた自分。
「でも全部それは『夢』になった。君のここは現実から夢に戻ったんだ。ならば、君は起きなければならないだろう?却説、君は私のカウントダウンで目覚める。しっかり目を閉じて」
「うん」
最後に、やはり不安そうにAは云うと、太宰はカウントダウンを始める。十から始まったカウントダウンは、間延びした声で、しかし確かに進んでいった。
きゅーう。はーち。なーな。
Aは名残惜しさを覚える。夢の中の太宰は如何なったのだろうか?心配だ。しかし、きっと大丈夫だろう。だって、太宰は強いから。
ろーく。ごー。よーん。
皆にも悪いことをした。私の理想のために作られて、そしてあえなく捨ててしまった。まるで小さい頃に買ったお人形をそっと捨てるように。
ごめんね。
「さーん。にーい。いーち。」
ありがとう。
「ぜろ」
Aの下の足場が崩れて、足が取られた。しかし、夢からゆっくりと消えていく感覚にAは身を委ねる。
やっぱり少しだけ目を開く。
残念そうに。
最後にAが見たのは。
暗闇に落ちていく太宰だった。
暗闇__無?
「太宰いいいいいいいいいいいいいい!!」
全く抵抗せずに暗闇に飲み込まれた太宰の手前で、手首についていたブレスレットが落ちた。
後悔と共に、Aは夢から醒めた。
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ふうゆず - 泣いた (2019年5月4日 5時) (レス) id: 77992ccb5c (このIDを非表示/違反報告)
江羅古九 - 珍しいストーリーで面白かったです! (2019年3月27日 12時) (レス) id: 0bf8db909c (このIDを非表示/違反報告)
きの - 下のゆきさんという人とは別人です (2019年3月10日 4時) (レス) id: 6cf2837f77 (このIDを非表示/違反報告)
きの - 完結おめでとうございます オチですがなんだかいろんなルートがありますが個人的には谷崎さんとかがいいかなと思います 一番多いのは太宰さんルートみたいですがなんかいやだな 太宰さんはずっと夢主ちゃんと友達のままでいた方がいいと思います (2019年3月10日 4時) (レス) id: 6cf2837f77 (このIDを非表示/違反報告)
輝星奏 夢歌♪(プロフ) - 初めまして、完結おめでとうございます!大好きです!←(唐突な告白w)夢主に同調しすぎて最後は特に泣きっぱなしでした。心にずっと残る素敵な作品、ありがとうございました。私は太宰さんルート見てみたいです。これからも頑張って下さい! (2019年2月24日 21時) (レス) id: cb7767f193 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:レン | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/
作成日時:2019年2月3日 13時