十 正体 ※イラスト有 ページ11
汽笛が脳に響き、私は上を見上げた…
私達は虎を誘き寄せるために暗い木箱だらけの廃倉庫の中へと入って行った。
「お二人とも…何を読んでいるんですか？」
敦くんが一声を上げ、不思議そうに此方を覗いた。
「良い本」
「こんな暗さで良く読めますね…」
「目はいいから…それに、内容は全て頭に入っているし…」
私は会話と頁を捲る音だけが響く夜…
私は"彼"の本をゆっくりと紐解いていた。
「それじゃ…何で読んでいるんですか？」
「何度読んでも良い本はいい。」
「本当に虎は此処に現れるのでしょうか…「現れる」」
『心配無用…武装探偵社は虎でさえ適わないよ』
「凄い自信ですね…何か羨ましいです。僕なんか孤児院ではずっと駄目な奴って云われてて…
「その上、今日の寝床も明日の食い扶持も知れない身で…」
それは違う。
「確かにこんな奴が何処で野垂れ死 んででも誰も気にしない」
彼は真っ当な善人だ。
「いや…いっそ虎に食われて死んだ方が…」
君は生きてなくちゃいけない
敦くんが内向的な事を云っている内に私は本を仕舞った。
あの日とは違う微風が吹いた___________________。
「さて…そろそろかな」
遠くから何かが割れる音がした____。
「い、今奥で物音がっ！！「そうだね…」」
『虎はあんな所から来ない…ね、太宰さん』
「どうして分かるんですかっ！！」
「そもそも変なのだよ…経営が傾いたからってそんな理由で養護施設が児童を追放するかい？」
「大昔の農村じゃあるまいし…まず経営が傾いたからって孤児を少人数追い出すのは有り得ない。」
「何を云っているんです…？(Aさん…太宰さん…っ」
「君が街に来たのは二週間前…虎が街に現れたのも二週間前…君が
鶴見の辺りに居たのが四日前…同じ場所で虎が目撃されたのも四
日前…国木田くんも云っていたろう…武装探偵社は異能を持つ輩の
寄り合いだと」
「この世には異能の力を持つ者は少なからず居る…そしてその力で成功する者も居れば…力を制御出来ず身を滅ぼす者も居る…」
「多分施設の人達は…虎の正体を知っていたが君には教えなかったのだろう…」
『正に月下獣ね…どうする？死ぬつもりは無いよ』
私は木箱の上に乗り、写真を取り出した。
『異能力_人間失格』
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作者名：黎明 | 作成日時：2023年9月22日 14時
