無名アイドル、事務所を退所する ページ1
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それは、太陽が燦々と照りつける昼下がり。
事務所の上層部から言い渡された一言に、俺は思考を停止させた。
“君には、事務所を退所してもらおうと思っている。”
「……あー、やっぱそうですよね、そろそろかと思ってましたけど」
「すまない、我々の力不足で……」
「いやいや、今まで無理を言って活動させてもらってたのは俺の方なんで」
むしろ今まで契約を終了せず更新し続けてくれていた事務所には感謝の意しかない。
結局、俺は運良くアイドルとしてデビューできたものの、そこからの実力不足や自己プロデュース力が皆無だったせいで、事務所から退所を言い渡され、無期限の活動休止を発表することにした。
各ソーシャルメディアでも、俺の活動休止について、数少ないファンが悲しんだり落ち込んだり、でもAくんの決めたことなら応援する！と前向きに捉えてくれるファンもいて、俺の心はずいぶんと救われたものだ。
「そうだ、あいつに連絡しないと」
上層部との面談を終えて、俺は事務所を出ると、すぐに“あいつ”にメッセージを送った。
事務所を退所する旨の連絡をすると、すぐに既読がついて、ふざけた返信が返ってくる。
《え？逆にまだ事務所解雇されてなかったの？びっくりだね！》
《失礼すぎるだろお前》
《まあ、これで晴れてAくんも無職のひきこもりニート確定ってことだね！おめでとう！》
《何もおめでたくないけど》
失礼すぎるそいつに呆れながらも、荷物をまとめるために俺は事務所のあっちこっちを往復し、その日は日が暮れる頃まで作業に明け暮れていた。
...
「はああ、やっと諸々の手続きから開放された」
「ようやく色々と落ち着いたみたいだね、Aくん！」
お疲れ様だねっ、と俺に笑いかけるのは、幼馴染である巴日和。この男も俺と同業で、アイドルであり現役の高校生である。
俺はまだ、都内の有名私立高校の芸能科に通っているが、事務所も退所したため、学校とは今後の進路と、在籍し続けるか、休学、もしくは退学するかの面談をしなければならない。
「いやあ、さすがの僕でも活動休止の連絡を受けたときは驚いたよ！君は本当に昔から僕を驚かせるのが得意だよねっ！心臓が止るかと思ったんだもん」
「さすがに誇張しすぎだろ。俺だって未だに実感湧かないもん」
アイドルとしての活動を休止した実感なんて、すぐに湧くわけがない。
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作者名：不眠 | 作成日時：2024年2月9日 1時
