caller ページ19
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「和くん、ちょっといいかな？」
施設の職員に呼ばれて向かった場所は待合室だった。
扉を開け中に入る
「じゃ、ゆっくり話してね。」
そう言うと職員は部屋から出て行った。
「かず…久しぶり…」
声のする方に見えた姿は
あの日の事がゆっくりとフラッシュバックして
鮮明でないもやのかかった、思い出せない母の姿。
記憶の片隅にあったその声は
はっきりと頭の中に入ってきて、あの日と重なる。
「かず、座って？」
動けないでいる俺を、ゆっくりとした口調で母は促す。
「何しに来たの。」
その場で口から出た声は、微かに震えていた。
「顔、よく見せて？」
か細い腕に小さな手のひらが頬を撫でた
その場に立ち尽くしたまま
力の入らない手で自分の服を掴む
伸びてくる母の手を、振り払うことなんて出来ずに。
「もう高校生になったのね…大きくなったのね…」
捨てた癖に 成長なんて興味ない癖に。
そんな言葉が頭の中を回っては、消えていく。
「かず、ごめんね。」
母の言葉が、頭の中にもわんと響く。
「成績もいいって、職員の人から。頑張ってるのね…。」
自分の鼓動が聞こえてきて、深く静かに息を吐いた。
「大学、行きなさい。」
「えっ？」
「お金、心配しなくていいから。行って。」
俺の言葉に被せるように母が言う。
「お母さん、家庭があるの。だから一緒には住めないけど
かずのしたい事、否定する気はないから。」
"幸せになってね"
待合室の扉がゆっくりと閉まる
部屋から聞こえるのは秒針の動く音と微かな呼吸
あの日と変わらない、甘くくどい香水の匂いが
部屋の中に残っていた。
続く
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pooh1221(プロフ) - 今、大学1回生のものです。中学３年の頃作者さん本人から占いつくーるの存在を教えてもらいました。今でもよく作者さんの小説を読ませていただいております。本当に文章表現が豊かで頭が上がりません。作者さんの更なるご活躍をお祈り申し上げます (2020年2月13日 16時) (
レス) id: 05dd12fe89 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：あんぱん | 作成日時：2019年11月11日 21時
