ナベリウス・カルエゴと誘い ※カルエゴ学生時代 ページ7
「ご馳走さ魔でした」
こうした何気ない言葉も、美声で聞くと落ち着かなくなる。
これは俺がこの女に何かを思っているからなどでは無い。何かを思っているわけがない。
単に聞き慣れないからだ。
女は口元を拭き、俺に対し「少し待ってて」と声をかけると売店に向かった。
──今更だが、この女と居る時間は輩に絡まれることが無い。
前述した通り、恐らく女を敵に回したくないからだろうと思われるが、こうもあからさまだと気分が悪い。
「今更だけどさ、缶のブラックコーヒー渡しちゃってるけど……大丈夫そう?」
俺の手元に缶のブラックコーヒーが置かれた音で我に返る。女が帰ってきていたらしい。
その女自身はと言うと、紙パックの魔苺ラテを飲んでいた。
──甘党か。味覚までこうも違うとはな。
「構わん。……今まで金も渡していなかったな。請求しろ。いくらだ」
「え?だって本当は私に関わりたくないでしょ、エギー」
何故そういう話になるのか。理由になっとらんだろう。
そんな言葉が脳裏に過ぎる。
だが、女は解決したとでも言いたげに口を閉ざした。
……理解不能だ。
「……これはただのお詫びのつもりだから。あんま気にしないで」
付け足された言葉に、女の裏を見た気がした。
貸し借りではなく、心情的な詫びを物質的なもので解決しようとしていたらしい。
そこまでして俺に近付きたいか。
「……放課後。空いてる?」
女は眉を下げ、疲弊した様子で尋ねてきた。
何故だ、と声が出そうになった。だが、思い直す。
──いや、これは好機だろう。
さっさとあの先輩の『命令』をこなしてしまおう。
「用はある」
「そっか。仕方ないね」
「だが、お前にも来てもらうぞ」
俺の発言に、女は目を丸くしている。
あの貼り付けた、無表情のような笑顔が崩れた。
少しばかり気分が良い。
「わ、私?」
「あぁ。放課後、空けておけ」
「わ、かった……」
動揺した様子で受け答えをする女の様子はあまり見慣れない。
後からつられてきたのか、俺も挙動不審になってしまったか?と込み上げてきていた。
「成功したんだね、カルエゴ君」
──放課後。
シチロウが俺の隣に居る女を見てから声をかける。
今聞いた話だが、昼休みはわざと俺を一人にするようにオペラ先輩から言われていたらしい。
俺も女も、誘われるがままに計略で会わされたという事だ。腹立たしい事この上ない。
「え?先輩から呼び出されてたの?私」
「……そういう事だ」
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作者名:とある誰かの作品倉庫 | 作成日時:2023年10月13日 0時