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ナベリウス・カルエゴと夜空 ※カルエゴ学生時代 ページ12

打ち上げ中。

何とか騒がしい場を抜ける。
Aが一人になる瞬間を探していたが、中々それが苦労した。
存外、奴はバビルスに溶け込んでいるらしい。
二人して売店まで辿り着き、コーヒーと魔苺ラテを互いの手に取りながら屋上にきていた。

「ありがとう、エギー。助かった」

コイツは先程とは違い、作られた表情よりも緩く笑っていた。本来のコイツの表情は疲弊の色が見える。
……気付いたのは、音楽祭の練習期間だったが。

「それにしては随分と楽しそうだと思えたが?」
「そりゃあね?でも、ちょっと疲れる」

からかってやろうと出した言葉を肯定され、また調子が狂わされる。
こうして交わされる言葉が、コイツの本心であれば良いと……この立ち位置が俺であり続ければ良いと願うのはもう何回目になるか。

時刻はもう夜だった。空を見上げる事などあまり無い。
だが、コイツの顔を見られない以上、空以外に見るものが無い。
ブラックコーヒーに口をつけ、場の沈黙に身を委ねる。

「……エギー、私、なんかした?」
「は?」

唐突な質問に思わず顔を向ける。
夜を溶かしたような瞳が、ジッと俺を見つめている。
心臓が痛い程に脈打つ音が、聴覚に大きく響く。
だが、当の本人は眉を下げて困ったように笑っている。

「皆の前だったから、ああ言ったんでしょ?正解だよ。でも、私は知りたい。なんで目を合わせてくれないの?」
「……お前の勘繰り過ぎだろう」
「違う、と、思う。だって、私がエギーを見た瞬間にわざと逸らすじゃん。前はそんなことなかったのに」

……コイツの、こういう所が嫌いだ。
見ていないようで、他者の事をよく見ている。そして、よく覚えている。
他の奴らの事は名前だって覚えるのに苦労している癖に、身内の事は些細な事でも覚えている。

──やめてくれ。そうして特別だと、思わされるような事は。

女々しいものだと思う。
陰湿だなんだとよく言われるが、そんなもの、この女には無意味だ。

「……お前のせいでは無い」
「でも──」
「俺自身の問題だ。……お前の事は、嫌いでは無い」

今は、それが言える事の最大限だ。
だが、女はそれで満足したらしく、ホッと一息吐くと視線を夜空に戻した。

「嫌われてないなら、いっか」
「あぁ」

引き際が良すぎる。
もっと引き止められたら、言えたかもしれないだろう。
しつこくないのは美徳だ。
俺の感情が余りにも忙しく回る。

あぁ、クソ。『恋』とはなんと面倒なものか。

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作者名:とある誰かの作品倉庫 | 作成日時:2023年10月13日 0時

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