劣等少女の病名【2】 (ページ10)

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56.余裕の話ページ10

｢はぁ｣

｢どうしたんだ？今日はやけに溜め息が多いな｣

マスクが無いから、髪の毛で顔を隠すように俯いていた。ソファに体育座りして憂鬱さをアピール。雲雀さんが町内に出かけている時はこうして雑談することができるから、草壁さんに話しを聞いてもらいたかったんだ。

｢実は、雲雀さんに何でもすると約束してしまって。うぅっ、近々死ぬかもしれません……｣

｢まぁ、他の人間ならまだしも、三峰なら平気だろ｣

草壁さんはあまり深刻に捉えていないようだけど、何を命令されるか分からない恐怖は凄まじい。しかも相手はあの雲雀さんだ。私が考えもしなかったようなことを頼んでくるかもしれない。

窓際にある雲雀さんのデスク、その奥の青空にすら不安を感じてしまう。｢そういえば、今日は三峰も町内の見回りがあっただろう｣ふと思い出したという感じで、向かい側から声がかかった。たしかに、そろそろ見回りに行く時間だ。

｢はぁ。こんな憂鬱な気持ちで外出なんて｣

｢体を動かせば気分転換になるかもしれないぞ｣

｢雲雀さんと違って、私は戦うのとか苦手です｣

｢そうじゃない。散歩だと思えってことだ｣

一理あるかもしれないけど、私は別に運動だって好きじゃない。それに人が多いところは未だに精神的疲労がある。前ほど思い込みが酷くないけど、それでも緊張して全く落ち着けないのが現状だ。

とはあえ仕事なので、真面目にやりますが。

商店街に入ると並中生もちらほら見かけた。この時間は人通りも多くなるし視線を集めやすい。女の風紀委員で、悪目立ちする青色の長い髪。目立つとそれだけで面倒事にも巻き込まれてしまうんだ。

｢お、噂の風紀委員様じゃねぇか。一人でこんなところほっつき歩いて呑気なことで｣

｢雲雀の彼女だからって贔屓されてるんだろ？お前を殴りゃ少しは気も晴れるってもんだぜ｣

｢わ、私、雲雀さんの彼女ではないのですが……｣

もうこれは飽きるほど毎回言われる。そして毎回こう言ってる。あれから五ヶ月経つのに噂は一向に消える気配がなかった。特にこういう連中は疑うってことを知らないらしい。本当、弱い犬ほどよく吠える。

｢とりあえず、違反者二名、取り締まり、ますね｣

｢あぁ？ハッ、やってみろよ！どうせ雲雀がいなきゃ｣

何か騒いでる人からとりあえず黙らせる。通販で買ったスタンガンは30万ボルトの高電圧モデルだ。どうせ雲雀がいなきゃ、なんて舐められたものだよ。痺れて動けない相手を勢いよく踵で踏みつけた。