劣等少女の病名【2】 (ページ19)

今日:1 hit、昨日:2 hit、合計:18,777 hit

65.ガールズの話ページ19

｢おばあちゃん！行ってきます！｣

玄関から大きな声で、この挨拶だけは忘れない。リビングから顔を出して優しく笑い返してくれた。それに安心して、待ち合わせ場所まで少し急ぐ。私の事情に京子さんを付き合わせるんだ。それで京子さんを待たせるわけにはいかない。

ちょうど十分前に駅前についた。髪を少し手で整える。深い青髪は黒にも見えるし目立つことは無い。ただ、かなりのロングヘアで貞子みたいに見えるせいか、道行く人がちらちらこっちを見てきた。これだから外出は苦手なんだ。

｢Aちゃん！｣

｢あ、京子さん。おはようございます｣

ずっと足元を見つめていたから気づかなかった。頭上から名前を呼ばれ顔を上げると、満面の笑みの京子さん。夏らしい爽やかな格好は似合っていて、地味な私とは大違いだった。

｢じゃあ、とりあえず歩きながら話そっか｣

確かに、このままここにいたら茹だってしまいそうだ。モールまで向かう道中、私の好きな服の雰囲気とかそういう細かい話しを聞かれる。｢そういえば、何で服を買おうと思ったの？｣そう聞かれ少し考え込む。

なんで買おうと思ったのか。

それはたしか、可愛い服がなかったからだ。
そう素直に伝えると京子さんの目がキラリと輝く。

｢誰か見せたい相手とかいるの！？｣

｢えっ、いや、そういうんじゃ｣

｢でも、可愛い服を着ていきたいんでしょ？｣

｢あ、えっと……そ、そうです、けど｣

｢なら、その人のことが好きってことじゃない？｣

好き？………いやいやいや、ナイナイナイ。
そりゃあ憧れているし、あんな風に強くなりたいとは思ってるけど。綺麗だなとか思ってるけど。それ＝恋ってわけじゃない、はず、だよね。

別に嫌いなわけじゃない。でも、好きってピンと来ない。漫画みたいに分かりやすく"恋してます"って感じにはならないんだ、現実は。

｢と、とにかく！動きやすくて可愛い服を！何卒！｣

｢うん、任せて！一緒に探そうね｣

｢はいっ！！｣

モールに着く前から意気込みは充分だった。雲雀さんのためであり、何より私のために。可愛い夏らしい洋服を買って、合宿で恥をかかないようにしなければならない。……あと、水着もできれば、なんて。中学生ってどんな水着が流行ってるのか、京子さん知ってるといいんだけど。

｢うわ、夏休みだし人いっぱい｣

｢早く入っちゃいましょう｣

熱気に圧倒されつつ、私と京子さんは冷気が漂ってくる方向へ向かう。夏の太陽はまだ昇ったばかりだ。