劣等少女の病名【2】 (ページ14)

今日:1 hit、昨日:1 hit、合計:18,795 hit

60.挨拶は大事な話ページ14

｢夏休みの件で色々話すことがあったものですから。それでお昼休み返上というか、普通にお仕事で｣

誰相手に、こんな必死に弁明しているんだろう。

京子さんは笑顔で聞いてくれているけど、周りの人達はむしろヒソヒソがヒートアップしてる。視線が怖かった。

｢そ、それでは失礼しますっ｣

そう言って教室からお弁当片手に逃走する。あの空間にいたら誤解に誤解を重ねるだけだ。ただの上司と部下みたいな関係なのに、男女だというだけでこんな目に合うなんて。

お昼休みはみんな教室で食べるから、比較的廊下に人がいない。それだけで心に余裕がもてた。目立たないよう端を歩いて応接室に着くと、あれ、と思う。ノックしても返事がなかった。いないってことは無いだろうし、そう思ってもう一度ノックしたけど、やっぱり応答無し。

｢し、失礼します……｣

顔だけ入れて中を覗いてみる。そこにはソファで横になっている雲雀さん。……寝てる。音を立てないようにゆっくり歩いてお弁当を机の上に置いた。けど、どうしたらいいんだろう。寝ている雲雀さんを起こす勇気がなかった。

＿＿そういえば……寝てるところ、初めて見たな

向かい側で目を瞑っている雲雀さんに恐怖は感じない。寝てしまうくらいだし、疲れているんだろう。ならやっぱり、起こさない方がいい。夏休み中の話しは今度でもできるし。ああでも、お昼休みが終わるまでに起きなかったらどうしよう。授業をサボるわけにもいかない。

｢ひ、雲雀さん｣

とりあえず小さい声で呼んでみる。でも、私のノックでも起きなかった人だ。起きるわけもない。私は呼ばれた側だし、起こしてもきっと怒られない、と思いたい。もう一度、さっきより大きい声で名前を呼ぶ。

｢雲雀さんってすぐ起きそうなのにな｣

こうなれば雲雀さんを揺すって起こすしかない。そう思ったけど、いざ触れようとすれば緊張して固まった。触れるのは肩でいいんだろうか。それとももっと下の脇腹あたり？ソファを揺らす、のは流石に変だよね。

手首を人の手に掴まれた。

｢え｣

いや、人っていうか一人しかいないんだけど。人間本当にびっくりすると悲鳴も出ないらしく、バクバク鳴ってる心臓だけが生きていた。雲雀さんはまだ目を閉じている。

｢遅い｣

いつから起きていたんだろう。
遅いって、ちゃんと来たのに。
何で手首を掴んだまま。
何故寝たフリなんて。

どれから聞いたらいいのか分からない。
でも、

｢お、おはようございます｣

まず挨拶