これは、とある青年少女の前世の話だ【ni】 ページ21
「1つ、面白い話をしようか」
煙臭いストールを顔を埋めながら、目の前の彼はなんの前触れもなく唐突にそう言った。
突然のことに、今にも閉じそうだった重い瞼を思わず押し上げて彼の瞳をはぼんやり見つめる。優しげに微笑みながら私を見つめる彼はどこか有無を言わせまいとする雰囲気があって、あぁ、これは話を聞かなければ終わらないなぁと私はため息をついた。
「話って？」
「とある一人の青年の何百年にも渡る恋物語だよ」
「恋物語？...兄さんがそんな話をするなんて珍しいね。どんな風の吹き回し？」
「別にええやろ、どんな話をしたって」
兄さんの右手がさり気なく置いてあったタバコの箱にちょいと触れる。...ちょっと兄さん？ここは禁煙だよ。じろりと睨めば彼の右手はそろりと引っ込んだ。代わりというかのように兄さんの手が私の頭部に触れる。くしゃくしゃと犬でも撫でるようなちょっぴり雑な手つきが心地いい。猫のように目を細めると、吐息混じりの小さな笑みが兄さんから溢れた。
「主人公の青年は、生まれながらに名前を持っていなかった。誰から生まれたのか、ここはどこなのか、自分は誰なのか、彼は何一つわからなかった。勿論生き抜く術は知っとったけどな。だけど青年はそれ以外何もわからなかった。愛を知らない青年。名前を知らない青年。人を知らない青年。彼は一人ぼっちで、荒れ果てた大地を転々と移動していたんや」
「周りに誰もいなかったの？」
「誰も。一人ぼっちや」
「何もわからず、なのに誰にも頼れなかったの？」
「そう」
「...それは、寂しいなぁ」
瞼の下に映るのは、家が焼け焦げ緑のない荒れ果てた地。そんな中1人ぽつんと佇む青年。つきりと同情心から傷んだ心臓を手を当てると、その掌に兄さんの大きな手が重なった。
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マーシャ(プロフ) - bhさん» ありがとうございます！あの話私もお気に入りだったので褒めていただけて嬉しいです！ (2020年8月17日 21時) (
レス) id: cf5983d7fe (このIDを非表示/違反報告)
bh(プロフ) - 最新話のci助教の話信じられないくらい好きです。胸が締め付けられました。ありがとうございました。 (2020年8月17日 0時) (レス) id: 204dfe46bb (このIDを非表示/違反報告)
マーシャ(プロフ) - イリアさん» 返信遅くなってすみません！ありがとうございます！嬉しいです…！ (2020年8月6日 8時) (レス) id: cf5983d7fe (このIDを非表示/違反報告)
イリア - やべーめっちゃすごい(語彙力) (2020年8月3日 10時) (レス) id: f0aa5ac6be (このIDを非表示/違反報告)
マーシャ(プロフ) - 闇ちょこさん» リクエスト了解です！ありがとうございます！そう言って貰えると本当に嬉しいです！更新頑張りますね！ありがとうございます！ (2020年5月21日 15時) (レス) id: cf5983d7fe (このIDを非表示/違反報告)
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