主菓子御一つ如何どす？【gr】 ページ20
『主菓子御一つ如何どす？』
淡い薄紅の着物が似合う娘が、練り切り片手に尋ねてきた。
自分の纏う衣があまりに質素なもんで、娘は自分のことをただの商人か、或いは位の低い侍だと勘違いしてしまったのだろう。此方からすれば好都合だったもんだから訂正こそはしなかったが、他の侍だったら不敬で首を跳ねられていたかもしれない。なんと運の良い小娘だ。
無視をするのも悪いから視線だけ其方に寄越せば、そこに立つのは感嘆するほどに別嬪な若い娘。あの助平な家来が見たら必ず手を出すであろうその美貌に、珍しく自分も見惚れてしまった。
「見栄えのいい菓子だな。…一つ頂こう。薄茶も頂けるかね？」
『勿論で御座います。少々お待ちになっとぉくれやす』
そう言い残すと暖簾の奥に下がる娘。一挙一動が美しく、出が武家だと言われても疑問を持たないほどに洗練されていたため感心する。
手元に残る練り切りを1口口に含むと、上品な甘みが口内に広がり、ほぅと思わず息を吐いた。
「…甘いな」
一口、更に一口。手は止まらない。
気がつけば練り切りはすっかりなくなってしまっていて、この手に残るのは梅の花が描かれた真っ白な懐紙のみ。名残惜しいと思いつつ懐紙を懐に仕舞えば、それを見計らったかのように娘が茶碗を持って近づいてきた。
一礼をして茶碗を3度回す。そっと薄茶を口に含むと、独特の苦味が舌に伝わり、ほんのりの身体が熱くなった。なんと見事な茶であろう。
「素晴らしいな……ここまで腕の立つ茶人には会ったことがない。実に見事だな」
『お褒めの言葉おおきに』
娘が嬉しそうに微笑する。娘の気品ある佇まいになんだか得をした気分になった。そういえば最近はあまりこれといった息抜きができていなかったかもしれない。こんな好い茶屋を見つけられるとはなんとも運がいいと思いつつ、自分は娘に向き合った。
「…お前、名は？」
『宮篠の家のAと申します』
「そうか。俺は………いや、そうだな。…グルッペンと呼んでくれ」
『ぐるっ、ぺん…様？』
「あぁそうだ。…美味かった。また来る」
『おおきに。是非ともまたいらしとぉくれやす』
娘が丁寧に礼をする。例を言いたいのはこちらの方だという言葉をぐっと飲み込み、踵を返して立ち去った。
行きよりも帰りは足取りが軽い。城に帰るとあの鬼のような部下が頭に血を昇らせながら怒り狂っているだろうと想像しつつ、男は小さく笑みを浮かべた。
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マーシャ(プロフ) - bhさん» ありがとうございます！あの話私もお気に入りだったので褒めていただけて嬉しいです！ (2020年8月17日 21時) (
レス) id: cf5983d7fe (このIDを非表示/違反報告)
bh(プロフ) - 最新話のci助教の話信じられないくらい好きです。胸が締め付けられました。ありがとうございました。 (2020年8月17日 0時) (レス) id: 204dfe46bb (このIDを非表示/違反報告)
マーシャ(プロフ) - イリアさん» 返信遅くなってすみません！ありがとうございます！嬉しいです…！ (2020年8月6日 8時) (レス) id: cf5983d7fe (このIDを非表示/違反報告)
イリア - やべーめっちゃすごい(語彙力) (2020年8月3日 10時) (レス) id: f0aa5ac6be (このIDを非表示/違反報告)
マーシャ(プロフ) - 闇ちょこさん» リクエスト了解です！ありがとうございます！そう言って貰えると本当に嬉しいです！更新頑張りますね！ありがとうございます！ (2020年5月21日 15時) (レス) id: cf5983d7fe (このIDを非表示/違反報告)
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