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住宅街の一角にあるこの幼稚園の周りは、今の時間じゃ人通りが少なくて、薄暗い街灯だけが車の中を照らす。





『海斗、なんで』


宮近「それ」





車を停めたのに前を向いたままの海斗が言う"それ"がわからなくて、顔を顰める。


そんな私をチラッと見た海斗は、フッと鼻で笑ってきた。





宮近「前までつけてなかったでしょ」





隣から伸びてきた手は、私の右手に付けられた松倉くんからもらった婚約指輪をなぞった。


勘がいい海斗のことだから、話はしていなくてもきっと検討がついたんだと思う。


何故か見られるのが嫌で、右手を左手で包むように握って隠した。





宮近「隠すぐらいなら外せばいいのに」





私の行動を見逃さなかった海斗は、私の左手をゆっくり開いて右手にある指輪を触ってくる。





『やめてよ』


宮近「じゃあ何で隠すの」


『わかんない、なんとなく』


宮近「へぇ。嫌なら俺の手、振り解けばいいのにね」





聞いてきたくせに興味のなさそうな返事、それに加えて余計な言葉。


今海斗の手を避けると言いなりになったみたいで嫌で、そのままでいることにした。


こういう時の海斗の気持ちは昔から全く読めなくて苦手。





『海斗さ、覚えてる?』


宮近「ん?」


『幼稚園のあの砂場で一緒に遊んでた時のこと』





"大きくなったらAと結婚する!"そう言ってくれた。


子供の頃のただの譫言だけど、私はそれでも嬉しかった。


海斗はきっと覚えていない。


今だって、ボーッと砂場がある方向を見つめているだけ。





『…やっぱり、覚えてないよね』


宮近「大きくなったらAと結婚する」


『え?』


宮近「約束したから」





"まぁAが約束破るみたいだけど"


そう言って自虐的に笑う海斗は、私の指輪を少し上に動かして指から抜いた。





『まって、返して』


宮近「コレそんなに大事?」





指輪を持った手を上にあげて薄暗い街灯に照らすように見つめている海斗。


好きな人からもらった婚約指輪、大切じゃないわけない。


なによ。海斗だって人の気持ち誑かしておいて綺麗な人と一緒に居たくせに。






『海斗、あのさ』


宮近「次は小学校かなー」





話をそらされて、車をそのまま走らせる。


私の指輪は海斗の手の中。


海斗の言葉通り小学校の周りをぐるっと1周して


小学生の頃よく行っていた公園に車を停めると、海斗はシートベルトを外して車をおりた。

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作者名:愛生 | 作成日時:2022年2月6日 23時

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