401話 ページ36
(……!)
対岸側に無事に引き上げられたザックを見て、Aは息をするのも忘れて喜びに震えた。神父が来ていなければ、今頃は。
助けられた本人であるザックは、未だ呆然としていた。自分が確かな足場に立っていることを確かめるかのように足踏みを何回かした後に、顔を顰めてグレイを見上げる。
「……なんで助けた」
「なに、そう簡単に終わっては少しつまらないと思ったのでな……」
納得いかない、と言ったようなザックの言葉に、グレイはふっ、と笑みを浮かべた。相変わらず裏の読めない、謎めいたその表情。
「私の忠告も聞かず、ナイフを突きつけたあの少女───レイチェル・ガードナーは今、ダニーとともにいるのだろう? そして今、お前たちはあの少女を取り戻したくて動いているのではないか?」
グレイの言葉にAとザックは黙り込む。図星をつかれた───そんな風に。
「それがどうした。なんの用があんだよ」
ザックは刃を構えてグレイを威嚇した。そんなザックを見て、グレイはまた笑む。
「ふむ……ザック、お前もこのようなことで感情を使うようになったのだな」
「なにがおかしいんだよ。すかして笑ってんじゃねぇよ!」
「あぁ、悪い……馬鹿にしているわけではないのだ」
「だったら、なんなんだよ」
「いや、ただな、ザック、なぜお前がこうなったのかを知りたいだけだ」
「あぁ!? こうなったってなんだよ! ここのやつらはこれだから嫌なんだよ! そん中でお前は一番わかんねぇ! 何なんだよ! ちゃんと説明しろ!」
ザックが声を荒らげる。焦りと苛立ちを含んだ声。グレイならば全てを知っているはずなのだ。その全てを、知っておかねばならない。何もかもを知っておくべきだ。ザックは感情のままにグレイに詰め寄った。
「ふむ、そうだなザック。お前にはややこしいことは、似合わぬが───少し説明しようか。A、お前もこちらに来るといい」
神父にそう言われ、Aはおずおずと頷いた。割れた床部分を飛び越えて、無事にAが着地したことをみとめると、グレイはふっと笑みをこぼし、その巨体で二人を見下ろしながら口を開く。
「私は幼少の頃より、神を信仰する人々をこの目で見ていたのだ」
124人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
リア(プロフ) - ゆゆさん» ゆゆさん、コメントありがとうございます!そしてお返事が遅れて申し訳ありません……!ようやく夢主が前に進む覚悟を決めることができました。残るフロアはあとわずかですが、ぜひ最後までお付き合いください。これからもどうぞ、よろしくお願いいたします! (2021年9月25日 2時) (レス) id: d0c52e385f (このIDを非表示/違反報告)
ゆゆ - 続編おめでとうございます!!楽しみに待っていました!夢主ちゃんが、きちんと前を向いて進んでいけそうなので、ホッとしました。次はいよいよB1……。夢主ちゃんがどう動くのか、とってもワクワクしています。リアさんのペースで、更新頑張ってください!! (2021年9月4日 17時) (レス) id: 0ff7621059 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:リア | 作成日時:2021年9月1日 16時