【殺戮の天使】天使か、生贄か。《Ep.10》

459話 ページ46

「おい、ワープって……あいつ、人間だろ！？」

「それとも、通気口とかからウゴウゴして出入りしてたのかな？」

「ちょ……ちょっと待ってレイ……」


　真剣な顔でそんなことをいうのはやめてほしい、と言いながらAは制止する。思わず笑いそうになるのをこらえていたからかろくに声も通らず、ザックの絶叫にあえなくかき消されることになった。


「気持ち悪っ！ あいつ人間じゃねぇだろ！！ つーか、そんなわけねぇだろ！ 俺だってわかるぞ、バカ！」

「……考えなおさないと」

「レイ、疲れてる……？」


　ザックに小突かれたレイをなぐさめながら、Aの頭は少しすっきりとしたようだった。レイの発言が真面目なものだったのか、冗談のつもりだったのかはわからない。しかし、考え込んだままグルグルと回るばかりだった思考はリセットされたようだった。
　その甲斐あってか、Aはふとあることに思い至る。頭の中に浮かんだのは、B7───A自身のフロアのことだった。


(わたしのフロアは、他のフロアとは少し違っている……出口と入り口が、同じ場所になっている)


　他のフロアでは、下のフロアから上がってくるためのエレベーターと、上のフロアに上がるためのエレベーターが別になっているが、Aのフロアだけは違っていた。
　フロアに降り立ってから、フロアの一番奥にあるEVスイッチを押し、元の場所に戻らなくてはならない──その構造は、迷路のようになっているAのフロアにおいては生贄を惑わせるのに好都合だったのだ。


　だから、もしかすると、ここにも出口はないのかもしれない。

　出入り口(・・・・)だけが、存在する。


「……ねぇ、レイ」

「どうしたの？」

「わたしのフロアのこと、覚えてる？ わたしのフロアにはね、エレベーターが一つしかないんだ。入り口も出口も、同じエレベーター。もしかしたらここも同じで、出口がないのかも」


　Aの言葉に、レイはぱちくりとまばたきをする。それから、急に何かに気が付いたかのように目を見開き、確信を持った声で言い放った。


「このフロアとは別に出口がある……！」

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