447話 ページ34
「でも、わたし、レイのために何もしてあげられない」
うつむいたまま、Aはぽつりと呟いた。
「いつも手を引いていてくれたのはレイだった。わたしはずっと臆病で、目の前も真っ暗なままで、レイが手を引いてくれないと前に進めなくて。今だって、わたしがレイのためにできるのは前に立ってレイを引っ張ることじゃない。ただ、殺されないように、あがくことしかできない……」
「それが誓いを守るために選んだお前の行動ならば、それでも良いだろう」
諭すように言われて、Aは再び押し黙った。自分の喉から出てくる言葉の稚拙さが、恥ずかしくて仕方がなかった。
(今までずっと、わたしは……)
今までの自分を振り返って、考える。
神父さまが言ってくれた言葉が、それがそのまま自分の言葉になる。自分で言葉を紡ぐには意志が足りなくて、曖昧なことしか言えなくなってしまう。
神父さまのそばにいたら、ずっと息がしやすくて。呼吸したくて縋ってしまう、そんな半生を過ごしてきたからだろう、今この瞬間も楽になりたくてグレイ神父に自分の心の代弁をさせてしまっている。
これで最後にしないと。そう決意したかれど、最後の最後に自分の心を決めたかった。そのためのひと押しを。最後まで頼ってしまうことになっても、グレイ神父に背中を押してほしい。
Aは、グレイ神父に問いかけた。
「神父さま。わたしは、レイを守れると思いますか」
「それがお前の誓いなのだろう」
「でも、できるかわからない。誓いのためにはさっき、ダニー先生を殺すべきだったのにそれもできなかった。わたしは……どうしようもなく自分勝手で、その上で自分の臆病さにずっと勝てずにいる」
「そうだろう。しかしお前は『人間』なのだろう？ 望んで、行動すれば、叶えられる。お前はもう『天使』ではなく、この場所に縛られているわけではないのだから。自分の心に従うといいだろう」
グレイ神父に言われて、Aは微笑む。最初から心は決まっていたのだ。
救う役割ができずとも、前に立って手を引く役割ができずとも、それでも良いのだろう。その役割をしてくれるヒトは他にいる。ただ自分は、真っ暗闇の中で見えた月の光を追いながら、見守り続ける。守るという誓いを果たすために、そばに居続ける。もう自分の心を裏切りたくはない。
レイの過去を知ったその時からそう決めていたのに、グレイ神父に肯定してほしくて弱いふりをしてしまった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 140人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
リア(プロフ) - ましゅまろぉさん» はじめまして！コメントありがとうございます。検索では結構埋もれてしまっているはずなのに、見つけてくださって光栄です。応援もいただけてとっても励みになります！ご期待に応えられるようがんばっていきますので、これからもよろしくお願いします！( ¨̮ ) (9月29日 1時) (
レス) id: 29a124a552 (このIDを非表示/違反報告)
ましゅまろぉ(プロフ) - 初めまして。コメント失礼しますm(*_ _)mこちらの作品を最近見つけて面白くて思わず一気見していました。これから更新お待ちしています。応援してますꉂ📣 (9月21日 22時) (レス) @page38 id: f13e73b476 (このIDを非表示/違反報告)
リア(プロフ) - ミミックさん» コメントありがとうございます！長らくお待たせしました。これほど更新が遅れてしまったのに読みに来てもらい、コメントまで！本当に嬉しいです。応援いただきありがとうございます。できるだけ早く続きをだせるよう頑張るので、また読みに来てくれると嬉しいです！ (9月13日 12時) (レス) id: 7341473d1c (このIDを非表示/違反報告)
ミミック(プロフ) - 更新再開ありがとうございます。リアさんのペースで頑張ってください。応援してます (9月9日 9時) (レス) @page36 id: 552a25aaf1 (このIDを非表示/違反報告)
リア(プロフ) - @高橋_Teretaさん» コメントありがとうございました！ そして大変お待たせしてしまい申し訳ありません。もしまだ更新を待ってくれていて、再び読みにきてくださるのであればそれほど嬉しいことは他にありません。完結までは必ず持っていきますので、良ければまたお願い致します。 (9月9日 3時) (レス) id: 29a124a552 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：リア | 作成日時：2022年8月30日 13時
