沁みるほどの幸せを _rtrt ページ17
玄関先で じゃーん と可愛らしく効果音を口にしながら、俺の前に綺麗な花束を差し出した。
「お花屋さんの友達がね、見繕ってくれたの」
Aが勢いよく出すから、はなびらが数枚はらりと舞った。そんなことも気にせず、嬉しそうに俺の反応をうかがう彼女に、つい口角が上がる。
「なんか綺麗だったからさ、作ってもらっちゃった」
俺が受け取り損ねた花束を引っ込めて、はなびらをつつきながら笑った。こういうの柄じゃないけど、花みたいに笑うんやなって思った。
……いや、だいぶ恥ずかしいなこの思考。顔に出ないうちに、とさっさと背を向けて廊下を歩く。
「もー、レトくんは感動とかないの?」
「綺麗とは思うけど」
花束を抱えて両手がふさがってる彼女の代わりに、椅子を引いてやる。彼女のいつもの場所。Aがここにいると、なんだか安心するのだ。
「この花束、なんとレトくんイメージです!」
は?と小さく声が漏れたが、彼女が花束をまた差し出してくれたので今度は素直に受け取った。
「俺要素どこなん?」
近くで見てみても、わからなかった。からっと笑う彼女と重なったこの花が、俺のことをイメージして纏められたものとは思えない。
「あなたしか見えない」
彼女は照れもせずに、俺をまっすぐ見てそう告げた。
「花言葉だよ、ブーゲンビリアの」
……そうか、すとんと落ちた感じがした。
だから、彼女と重なったのだ。まっすぐに愛を伝える花と、まっすぐに俺を見つめるAを交互に見る。俺もこれくらい、ストレートに伝えられればいいんだけど。
「ね、わたし、レトくんしか見えてないんだ」
俺が黙るから遅れて照れがやってきたのか、はにかみながらそう言った。途端、目頭がぐっと熱くなる。俺だって、今までもこれからも、もちろん今この瞬間も、Aしか見えていないのだ。
「え、泣いてんの」
それはまだ、流れていないはずだった。目に溜めて堪えていたはずだった。それでも、彼女にはバレるんだ。
「匂いが目に沁みたんやって」
お互いが、お互いしか見ていないんだから。
「っふふ、レトくんやっぱり鼻利かないんだね」
ブーゲンビリアは、ほとんど匂いのしない花らしい。彼女は俺をからかうように笑った。でもその直後、Aの目が潤んだ。俺だって見てるんだからわかる。
「レトくんもわたしだけ見ててね」
「……あほ」
花じゃないならきっと、想いが目に沁みたんやろ。
『沁みるほどの幸せを』end
ワードパレットより。
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ぽる。(プロフ) - むい。さん» うれしいです!!ありがとうございます(;_;) (2020年1月8日 21時) (レス) id: 3842b3f5d9 (このIDを非表示/違反報告)
むい。(プロフ) - すきです!!!とにかく、すきです!!! (2020年1月3日 9時) (レス) id: 830124773a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぽる。 | 作成日時:2019年12月29日 19時