あふれてしまう、そのまえに。〜6〜

にほんじんですか？ ページ2

空港に降り立つと、


少しだけ異国の匂いがした。



通り過ぎる人達の見た目はあまり変わらないのに、
やっぱりどこかが違うようで。


でも何が違うかは分からない。



そんな不思議な感覚。




「大丈夫？よく耐えたよ…」



ロビーの椅子に身を預ける栗野さんに
そっと声を掛ける。




「これ、彼女に。」



ぽいと飲み物を渡すあやのは、
着いて早々、携帯で誰かに電話して、またかけ直して忙しい。


その中いつ何処で買ったか
微炭酸飲料を渡すこの親友はやはり男前だ。



そもそもはこれも、
あやののお蔭の弾丸ツアー。



会社から業績アップの報酬として
金一封か韓国旅行か選択肢を与えられ


「今行けってことよ。行くでしょ勿論。」


そんな電話を受け取ったのが2日前。
以前栗野さんの話をちらとしていたからか、



「その彼女も連れてきな。」


そう言われたが、
あやのと面識も無かった栗野さん。
流石に申し訳無いと断っていた。



結局、あやのは仕事も兼ねての韓国で
Aが1人になるから、と半ば強引に連れてきたのだ。


だが、まさかこんなに飛行機が駄目だとは
なんだか可哀想になってしまう。


「ありがとう、ございます。頂きます〜…」


栗野さんがその華奢な手でキャップを回すと、
プシュ、と空気が抜ける。


こくりと飲んで、また椅子にもたれかかる。



Aはしゃがんで、背中をさする。



「Aさん、ごめんなさい、せっかく着いたのに。」

弱々しく出る声。


「謝らないで、大丈夫、楽になるまでゆっくりしよう？予定が詰まっているわけでも無いからね。」


より小さくなってしまった背中をさすりながら返すA。


「Aさーん、私今幸せ過ぎて…
だって、今来なきゃきっと永遠に来れなかったです。」




韓国語のアナウンスが流れる。


目に入る表示の文字も、ハングル、そして英語。


目の前を通り過ぎるCA達のスタイルの良さにうっかり見惚れると


「괜찮습니까？」


穏やかな声が降る。


その声に見上げると、品良いスーツをすらりと着こなす男の人が
心配そうにこちらを見つめている。


えっと、とAは考える。

ケンチャナ、と似たフレーズだった。
大丈夫、という様な意味の筈だと、
恐らくぐったりしている彼女を心配してくれているのだろうと、

そう解釈するまで30秒程かかると


「にほんじんですか？」


丁寧に発声する日本語に、
状況把握の早さに、

この人、出来る、

と、Aは背筋が伸びる。


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